九ふん〜街の持つ多様な側面と、その街並み〜

九ふん(きゅうふん、台湾語ではカウフン、中国語ではジォウフェン)は台湾から東へ30km、新北市瑞芳区に位置する山あいの町です。日本では2001年の映画「線と千尋の神隠し」のモデルになった街として有名になりました。台北市からのアクセスは台鉄松山駅から九?へ約1.5時間、そこからバスやタクシーに乗り、30分程度で街の入口まで到着します。車や観光客で非常に混雑した基山街の入口付近の展望台からは海近くまでせり出した山々と、斜面上に並んだ九?の街並みが見られます。


19世紀末に金と石炭の採掘が始まったことで次第に町が発展し、日本の統治時代にその最盛期を迎えました。街並みはその日本統治時代の面影を残しており、当時の酒家(料理店)などの建物が多く残っています。しかし第二次世界大戦後に金の採掘量が減り、1971年に金鉱が閉山されてから町は急速に衰退しました。ですが1989年、ベネチア映画祭でも金獅子賞を獲得した「悲情城市」のロケ地となったことで九?は再び注目を浴びるようになります。ノスタルジックな風景に魅せられた若者を中心に多数の人々が九?を訪れ、台湾では90年代初頭に一時九?ブームが起こったそうです


エリア内の建物ですが、日本の統治時代の影響も残っているとはいえ、木造瓦屋根の建物ばかり、という感じではありませんでした。瓦といってもセメント造りの平瓦、構造も時代を感じさせるコンクリート造が多く、煉瓦造りや朱塗りの特徴あるものが点々と残っている、といった印象でした。木の建具などには日本に通ずるものが在りましたが、その造形はまた日本のそれとは違っておりアジアらしいものとなっています。

ただ景観的に印象的だったのが軒先の提灯なども含め、看板サインに赤系が多かったこと。何となく高揚感や食欲を高め、エリアの統一感を創出する色使いが効果的になされているように思いました。

幅3〜4m程度の観光の経路を登っていくと、左右に様々なみやげ物や飲食のお店が並びます。道が曲がりくねりながら幅員が様々に変化し、アジアらしい喧騒の中を歩いていくと何だかわくわくした気分になってきます。しかし狭い道路は店舗に資材を運ぶバイクの通り道にもなっており、完全に観光客の動線と重なっているので注意が必要です。基山街の入口でも一般車両と観光客の車、また観光バスの混雑が目立ったように九?も交通の問題を抱えています。類似する様々な観光の街が悩まされる共通の問題です。

また1800年代末からの金・炭鉱としての街、植民地時代の日本の影響を残す街、世界的な映画の舞台となった映画産業の街という様々な顔を持つ九?にとって、どの時代の街並みがそのアイデンティティとなりうるのかはまだまだ熟慮する余地がありそうですが、現状ではそういった時代は違えど歴史的価値のある建物がかなり点在する状況となっており、街並み景観の面的な整備などはなされていないようです。

交通混雑と街並み整備の問題、このあたりが九?が今後も観光地として人気のある地位を保ち続けるためには、避けて通れない問題と言えます。


(文責:加藤寛泰)