披露山庭園住宅地 〜神奈川県を代表する高級住宅地〜

◆はじめに

披露山庭園住宅地は神奈川県逗子市の小高い丘に位置する、県屈指の高級住宅地のひとつである(写真1, 写真2)。最寄駅は横須賀線の逗子駅で、東京駅からは乗り換えなしで一時間ほどでつく。眺望は抜群で目の前に相模湾が広がり、晴れた日には遠くに江の島・箱根・富士山・伊豆大島を臨むことができる(写真3)。絶好のロケーションでありながら災害にも強い。かねてからこの地は天然の要塞として知られていて鎌倉幕府の要人も別荘地として使っていた。この地名がつけられた由来は諸説あるが、一説には源頼朝がこの山で御家人たちに手柄物や全国から献上された貢物を披露したことがはじまりだと言われている。
住宅開発はTBS 不動産企画のもと三井不動産によって1968年から始められ、1971年に分譲が始まった。分譲当初は1区画1000u、建ぺい率20%、高さ8mという条件で販売されたが、一部は敷地を分割せざるを得なかった。しかし1995年の建築協定見直し以降、より一層街並み維持・向上に努めたため、現在も高級住宅地としての気品と風格を漂わせている。
瀟洒な街並みと強固なセキュリティから日本のビバリーヒルズと形容されることもあり、経営者や著名人がこの地に居を構えている。

写真1:披露山のまちなみ@(筆者撮影)
敷地内は無電柱化されている

写真2:披露山のまちなみA(筆者撮影)
柵を使わず生垣を造ることで、安らぎのある街並みを形成している。

写真3:披露山のまちなみB(筆者撮影)
晴れた日には青い空と広い海を楽しめる

◆住民主体のルールづくり

庭園住宅地としての環境を維持するため、披露山庭園住宅地には「逗子披露山庭園住宅地区建築協定」が設定され、建築物の敷地や位置等に関する基準を定めている。建築物に関する制限と敷地に関する制限に分けて表1に代表的なものを記載した。
また建築協定がしっかり運営されるようにするために建築協定の補足的ルールといえる「建築に際して守るべき事」と環境コンサルタント制度が導入されている。
「建築に際して守るべき事」では望ましくない事例について丁寧に解説している。景観に関連する事として仕上げのないコンクリートブロックには吹き付けや塗装の仕上げをすることや、3階建に見えるような建物は圧迫感を軽減する工夫を行うことが必要である。
環境コンサルタント制度とは、家屋の建築や改築の際には専門のアドバイザーと協議をすることを義務付ける取り決めである。規定に従い街にふさわしいと評価されたなら個性的な建造物でも認められるという意味で、住民の創造性を生かす制度であると換言できるだろう(写真4, 写真5, 写真6)。

表1:逗子披露山庭園住宅地区建築協定(第6条、第7条、第8条抜粋)
(参考:披露山庭園住宅団地管理組合法人「建築協定書」https://hiroyama.jp/co-agreement)


写真4:洋風建築(筆者撮影)

写真5:和風建築(筆者撮影)

写真6:現代建築(筆者撮影)

また、よいまちづくりにおいてはハード面を整えるだけでなくソフト面の充実が肝要である。1984年に区分所有法が改正され、団地管理組合規定・法人の規定が設けられたことに則って、1985年に披露山庭園住宅団地組合法人が設立された。管理組合法人規約ができたことで、会費を徴収し環境の整備や防犯・防火管理といった活動を安定的にできるようになり、安全で安心な美しいまちが維持されている。
セキュリティが頑健であることは特筆すべきであろう。塀がなく死角を作らない街並みは防犯環境設計の優れた構築例として挙げられる。さらに警備員の防犯パトロールや、各戸のセキュリティ導入はゲーテッドコミュニティの性質を強めることとなっている。

◆おわりに

披露山庭園住宅地は、建築協定と独自の規約を住民が遵守することで、住民主体のまちづくりが実現されている一例である。しかし個々の建築物に対しては明確な規制を設けていないため、建材やスタイルもまちまちな家が集まる「おもちゃ箱のような景観」と批判する見方もある。
「良い街並み」の定義は百人百様だが、著者は披露山庭園住宅地のまちなみは多様な個性が集ってできあがった一つの作品のようだと感じた。建築ファサードの統一性は高くなくても、軒の高さを揃え壁面を後退させることによって地区全体としてはまとまりのあるスカイラインや景観の形成が図れており、むしろ正面性を持たせる造形意匠を採用することで均質空間の中にヴァナキュラーのエッセンスを取り入れて、「場」の体験価値を高めている。この地のまちづくりは生活景のデザインに関して大きな示唆を与えているのではないか。

◆参考文献

・披露山庭園住宅団地管理組合法人,「ご紹介」 https://hiroyama.jp/introductions(2022年3月15日閲覧)
・齋藤広子(1999), 披露山庭園住宅ー管理組織と建築協定を考えるー,検証/有名住宅地その後1,家とまちなみ39 https://www.machinami.or.jp/pdf/machinami/machinami039_4.pdf(2022年3月15日閲覧)
・伊東孝(2002),住宅地について考える 披露山庭園住宅地の体験から,まちなみ・まちづくりエッセイ24,家とまちなみ46 https://www.machinami.or.jp/pdf/machinami/machinami046_10.pdf (2022年3月15日閲覧)
・披露山庭園住宅団地管理組合法人,「建築協定書」 https://hiroyama.jp/co-agreement(2022年3月15日閲覧)
・逗子披露山庭園住宅地区建築協定運用規定「建築に際して守るべき事」 https://www.hiroyama.jp/wp-content/uploads/2012/03/unyo2017a.pdf(2022年3月15日閲覧)
(文責:中島)