開発が停滞している理由のひとつには、当初想定していた住民の交通手段が十分に機能しなかったことが考えられます。
活気のある街づくりを行うためには、新たな輸送方式の提案と同様に、雑草に侵食された歩道の整備や電線類の地中化など、開発事業者
と住民が協同して地域の特色を活かした新しい町並みを生み出す試みを継続することが必要だと思います。森のさかな公園以南の開発が
進んでいない地域は電柱の地中化に対する障壁も少ないと考えられ、自然と住宅地の調和のとれた景観の提案が行われると面白いかもし
れません。
住宅団地の事業主体は2007年7月18日までにシャトル桂台の運行再開の断念を発表しており、今後新たな輸送方式が検討されるそうです。
地形的な問題から代替手段は限られてくるかもしれませんが、猿橋の眺望も楽しむことのできる魅力的な解決方法に期待したいと思います。
なお同団地には現在、開発当初の計画の開発面積73.8ha、総戸数1000戸、計画人口3,500人に対し、322世帯、1000人が居住しており(*3)、
運行停止後はシャトル桂台の管理会社が配備したタクシーやバスで住民を代行輸送しています。
地域生態系の保全と宅地造成の双方を矛盾することなく両立させ、住環境を整備していくことは多くの困難を伴います。
大月市猿橋町桂台では、地域生態系の状態を把握するための指標となる環境指標生物にニホンリスを選定し、ニホンリスの保全対策を
行うことで、生態系全体の保全を評価しようとする試みを行っているそうです。(*4)
環境指標生物とは、様々な環境条件を調べるために、その環境に生息する生物のうち、ある環境条件に敏感な生物を指して用いられる
言葉です。例えば、河川の汚濁を調べるために、メダカや鮎の生態を調べる事例が比較的有名かもしれません。
ある環境条件を知るために、例えば温度や湿度、化学組成などを直接調べずに、環境指標動物を用いる利点は、
・特別な機器を必要とせず、誰にでも測定ができること
・時間的、地理的な厳密さを必要としないこと
・原因が特定できなくても、環境の悪化を知ることができること
などがあります。私たちも、ゴキブリや蟻、カラス、カビといった生物を、住環境を評価するための指標として日常的に利用しているの
ではないでしょうか。
大月市桂台の場合、数ある生物の中からリスを環境指標動物に選んだ理由は、ニホンリスが希少動物であることと同時に、地域生態系
の保全と良好な住宅地環境の創出といった観点から、リスが人間にとって親しみやすく、継続的な環境保全、創出活動のために関係者
の合意形成や住宅地のイメージづくりに寄与することが想定されています。(*5,*6)
近年、たびたび耳にすることがある循環型の環境を構築するためには、生態系の多様性をどのように確保するかということが大きな
指標となります。
希少種や人間にとって好ましい生き物を保護することが、生態系の多様性を確保する活動かどうかということについては検証が必要だ
と思いますが、人間の活動(住宅地開発、外来植物の持ち込み・・・)が地域固有の生態系にどのような影響を与えるのかを、環境指標動物
を通して知ることは、近代的な生活の中で自然との共生を実感できる大切な機会だと思います。
今回の調査では、残念ながらニホンリスを目にすることは出来ませんでしたが、庭先から溢れ出る果樹の匂いに誘われ出てくる昆虫を
数多く目にすることが出来、豊かな自然と落ち着いた生活を求めてきた入居者の住まいに対する思いを庭先に垣間見た気がしました(写真10)。
(写真・文責:引田有人)

(写真10)プロムナードの様子
参考文献:
(1)
厚生労働省大臣官房統計情報局『平成18年 国民生活基礎調査の概況 』
(2)
コモアしおつ公式サイト/コモアの風/コモアしおつ建築協定について
(3)
『山梨日日新聞web版』2007年07月19日(木)「大月の小型モノレール 運行再開断念」
(2007/08/05アクセス)
(4)
「ニホンリスを環境指標に、大規模造成工事で地域生態系を保全〜リスの行動範囲や移動経路を調査し、各種保全策を展開〜」
(2007/08/05アクセス)
(5)
中村健二他(2001)「環境指標動物を用いた地域生態系保―パストラルびゅう桂台におけるニホンリスの保全―」『清水建設研究報告』
(6)
米村惣太郎他(2007)「環境指標動物を用いた地域生態系保全(その2)−その後のリスの橋と利用状況および生息環境について−」
『清水建設研究報告』