景観に生活を見る

韓国の民家には、その食文化を色濃く残す風景がそのまま見られる。特に、韓国の中でも韓国らしいと言われる 安東市では伝統的な街並みが数多く残されており、また、庶民の生活も伝統を受けついでいる。
写真1は、11月に葉物を乾燥させているところである。この葉物を炒め物や煮物などに使うのだが、健康に良いそうだ。 この地方は、冬が寒く、そのために、紅葉はとても美しい(写真2)。近くには河回村と呼ばれる伝統的な民俗村もある(写真3)。 ここでも、軒下に様々なものをぶら下げて保存している。

(写真1)葉物を乾燥させている様子

(写真2)見事な紅葉

(写真3)河回村の伝統的な建物(宿泊や食事もできる)

この地域はまた、文化的に極めて高い水準であることでも有名で、儒教教育の中心地でもあった。儒学の大家李退渓が教育施 設として1560年に建てた陶山書院がある(写真4)。写真3では、左側が部屋に、右側が開放的な空間となっているが、寒い冬期にお いては、オンドルで暖めた左側の部分で生活を行い、暖かな季節には右側の開放的な空間を利用するいわばdualな生活を一つの住 宅で満喫できる伝統的な知恵が込められている。このような工夫は普通の民家でも同様に見られる。

(写真4)陶山書院

地域の特徴的な生活を垣間見ることのできる景観はとても魅力的である。それは単なる形式美や機能美とは異なり、 生活の知恵を形にした姿が、我々の情感に訴えかけるからだろう。

現代の建物では、生活の知恵を形にした景観があまり見られない。素材技術は向上し、外見には現れない高機能が隠されて しまっている。しかし、あえて、生活の知恵を形にした外見を取り戻せないだろうか?例えば、伝統的な家屋に見られる格子を 現代的によみがえらせるなど、いくらでも工夫できる気がする。生活の知恵を景観に昇華させる。市街地景観を魅力的にするヒ ントがここにあると思う。(文責:浅見泰司)