網走監獄設置の背景-北海道開拓と近代化遺産-

◆はじめに

歴史・処遇編であげたように、北海道には明治時代後半に樺戸集治監、空知集治監、釧路集治監、網走囚徒外役所(釧路集治監の分監)、帯広囚徒外役所(釧路集治監の分監)の計5つの集治監が建設されました。
これらの監獄が建設されたのは1881年から1895年の間です。なぜこの短期間に、続々と北海道に刑務所がつくられたのでしょうか。理由の一つは過剰拘禁を緩和するためです。自由民権運動期国事犯が激増し、明治10年代から増え続けた収容者数は明治18年には8万9千人と観測史上最多となりました。囚人増加によって全国的に監獄は過剰拘禁となっていて状況を改善したかったという行刑上の事情がありました。もう一つは開拓の機運が高まっていたためです。北海道庁長官永山武四郎は海外視察後、「沿海州の兵備が増強され、ウラジオからシベリア鉄道の敷設が始まり、ロシアの東進恐るべし」と、周辺諸国とりわけロシアの南化を恐れていました。上記二つの理由から北海道の開拓は急ピッチで行われることが決定しました。
刑務作業と称して5つの監獄の被収容者は昼夜問わず命懸けで開拓事業に従事させられることとなりましたが、昨今北海道の経済、とりわけ鉄道経営に影を落とすようなニュースが多く目に飛び込んでくると感じます。JR北海道日高本線は2021年にバスへ転換され、留萌本線は段階的な廃止が検討されています。かつて総延長4000キロあった北海道の路線は今や2500キロにまで減り、鉄道のない町も多く存在しています。 なぜこのような事態が生じているのでしょうか、本稿では北海道の開拓と近代化遺産と題して紹介していきたいと思います。


図1 網走駅(著者撮影)


図2 JR石北本線のワンマン車両 女満別駅にて撮影(著者撮影)

◆北海道の近代化-石炭とともに都市発展する過程-

石炭は日本の産業化に必要不可欠で、石炭含め豊富な資源が眠る北海道の開発は明治時代中盤以降国家プロジェクトとしてすすめられました。炭鉱とともに、工場建設、インフラ整備も進み、また人口も増加し数十年で大きく発展を遂げました。
太平洋戦争時、北海道も空襲被害に遭い焼け野原となりますが、1950~1960年代に見事復興を果たします。戦後傾斜生産方式による石炭の増産対策が行われ、生産量は徐々に増加し1966年には本道のピークである2296万トンを記録しました。石炭同様、付近に住友赤平炭鉱をはじめとする15の炭鉱があった根室本線赤平駅の貨物発送量が1960年に全国一位に躍り出たことがあるくらい、当時の鉄道貨物輸送も盛んでした。
しかし1960年代以降経済成長に歯止めをかける存在が多数出現してきます。エネルギーシフトと貿易の国際化によって北海道の石炭産業は斜陽化、モータリゼーションの加速で鉄道利用者は減少しました。この三重苦は北海道とりわけ炭鉱都市に大打撃を与えました。石炭と労働者の減少に見舞われたまちに残された列車は小型化、本数削減の末廃止に追い込まれているものも少なくないのです。この状況を食い止めることができない背景に周辺自治体・JR北海道の経営が厳しくなったこともあげられます。

◆北海道のこれから-まちづくりの処方箋-

各地域で鉄道への回帰を狙った取り組みがなされているものの、車社会の北海道では難しい場合があります。炭鉱や鉄道はどのように遺していくのがよいのでしょうか。
炭鉱に関して北海道内でも様々な取り組みがなされていて、かつて空知集治監も置かれていた空知地域は閉山した幌内炭鉱の遺産を大切に残しています。幌内鉄道は炭鉱閉山と同時期に廃線となりましたが、現在は路線の一部2.5kmをトロッコに乗って楽しむことができます。また前節で紹介した赤平炭鉱でも記憶継承の取り組みが行われています。
鉄道に関して、空知地域の例含め表1のように廃線跡を保存または転用した事例は見られますが、導入の場合には経営面や安全面での課題を乗り越える必要があります。しかし壊さず何らかの方法で活用することに対しては現場でも前向きに検討されていて、JR北海道は冒頭に挙げた日高線(鵡川-様似間)、石勝線(新夕張-夕張間)の廃線跡地活用方法をオープンイノベーションで検討しようと試みています。
地域社会の将来像を描き、それを支える地域のインフラや施設はどのように維持管理・更新されるべきか。施設のハード面と運用のソフト面の両方の検討を合わせて行うことが求められています。

表1 廃線路盤の活用事例(著者作成)

◆参考文献

小口千明(1983),集治監を核とした集落の形成と住民の集治監像,歴史地理学紀要,25,43-70
http://hist-geo.jp/img/archive/025_043.pdf
野尻彰(2009),鉄道跡地の実態と再活用状況に関する研究 線路跡地と駅跡地の土地利用転換状況,日本都市計画学会都市計画論文集,44,3
https://www.jstage.jst.go.jp/article/journalcpij/44.3/0/44.3_151/_pdf
南一誠(2021),しなやかな建築,総合資格「JR北海道 廃線跡地活用オープンイノベーションプログラム」の実施(2022/11/3 閲覧)
https://www.jrhokkaido.co.jp/CM/Info/press/pdf/220823_KO_open_innovation.pdf
三井住友フィナンシャルグループ, 〜特集〜 鉄道が導く持続可能な社会(2022/11/3 閲覧)
https://www.smfg.co.jp/sustainability/report/topics/detail106.html
浅野学園鉄道研究部, 廃線路盤の活用について(2022/11/3 閲覧)
https://ara-study-archive.amebaownd.com/posts/21872241
経済産業省資源エネルギー庁, 【日本のエネルギー、150年の歴史B】エネルギー革命の時代。主役は石炭から石油へ交代し、原子力発電やLPガスも(2022/11/3 閲覧)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/history3shouwa.html
北海道月形町公式サイト, 樺戸集治監の終幕(2022/11/3 閲覧)
http://www.town.tsukigata.hokkaido.jp/5552.htm
博物館網走監獄 公式サイト(2022/11/3 閲覧)
https://www.kangoku.jp/
「炭鉱港」が日本遺産に?3(2022/11/3 閲覧)
http://kai-hokkaido.com/feature_vol45_tantetsuko3/
三笠ジオパーク(2022/11/3 閲覧)
https://www.city.mikasa.hokkaido.jp/geopark/detail_sp/00003766.html
JR北海道,日高地域広域公共バスのご案内
https://www.jrhokkaido.co.jp/hidakasen/
NHK NEWS WEB,留萌線,段階的廃止受け入れ最終調整 30日にも合意見通し,2022年8月28日放送分
https://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20220828/7000050070.html
50年前は4000kmあった北海道の鉄道、いまは2500kmに 「維持困難」でさらに半減か
https://trafficnews.jp/post/59283/5
札幌市,浮かび上がる「開拓使」の遺産ー札幌のまちづくり・ものづくり
https://www.city.sapporo.jp/shimin/bunkazai/documents/r2story_kaitakushi210316.pdf
北海道ファンマガジン,戦時中、道内も空襲を受けた
https://hokkaidofan.com/wars/
北海道,北海道の炭鉱の歴史について
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/fs/6/0/8/2/4/3/1/_/R3tankou1.pdf
根室本線赤平駅,炭鉱都市の代表駅は赤平三山のお膝元
https://ishikari210.blog.fc2.com/blog-entry-1153.html
乗り物ニュース, 広がる「廃線観光」その魅力とは 廃止間近のJR三江線でも「観光化」、実現なるか,2017年11月13日
https://trafficnews.jp/post/79013/2
宮古線,岩泉線レールバイク
https://www.city.miyako.iwate.jp/kanko/rail_bike.html
交通経済研究所,廃線跡のアトラクションとしての活用事例とその課題
https://www.itej.or.jp/cp/wp-content/uploads/katsudou/2021-12.pdf
Rail-MTB Gattan Go!!
https://rail-mtb.com/about/history/
アクティビティ王国とかち,鉄道運行体験(北海道ちほく高原鉄道(株)ふるさと銀河線)
https://tokachibare.jp/activity-tokachi/post-537/
吾妻峡レールバイク アガッタン
https://agattan.com/
産経新聞,鉄道ファンがサポーター 「天空の駅」発のトロッコ列車,2021年11月13日
https://www.sankei.com/article/20211113-N63PGHJWSZNONPHAS6EORSCN74/
嵯峨野トロッコ列車,トロッコ列車開業物語
http://150.60.28.109/kaigyou.php
東洋経済オンライン,JR相模線,「砂利鉄」の過去に消えた支線の秘密 廃線の跡には明治以降の「歴史遺産」が残る,2021年12月3日
https://toyokeizai.net/articles/-/472858?page=4
ニッポン旅マガジン,大日影トンネル遊歩道
https://tabi-mag.jp/yn0171/
つくば霞ヶ浦リンリンロード
https://www.ringringroad.com/tsukuba_train/
トロッコ王国美深
https://www.torokkobihuka.com/
道南トロッコ鉄道
http://senro.donan.net/
小坂鉄道レールパーク
http://kosaka-rp.com/

(文責 黄伊琳)