まちの道路空間 その 2  〜道路の沿道の建物高さの分布の視覚化〜」

本コンテンツでは、都市内の各道路の沿道に立地する建物の高さの分布に着目し、簡便な方法でその集計を行うとともに、東京都の中心部にある 5 区を対象に視覚化を行い、各区ごとの特徴について考察を行いました。

 

■はじめに

都市の市街地では道路が網目状に広がり、その沿道には様々な建物が立ち並んでいます。これはどの市街地においても見ることができる光景ではあるものの、その様子は都市ごとに異なり、まちなみを構成する主要な要素の一つとして考える事ができます。市街地の街並みや景観を、その地域の計画方針に合う望ましいものへと誘導・規制を行うことを目的として、都市計画においては建物の位置や用途など、種々の要素に関するルールが存在していますが、その項目の一つに「建物の高さ」も挙げられています。この建物の高さは、たとえば、地域の日照条件を規定したり、建物が立地する沿道の道路幅員の大小などと合わせて、市街地の解放・圧迫感を規定したりするものです。そのため、地域にとって望ましい住環境やまちなみの形成を図っていく上では、重要な指標であると考えられます。

建物の高さに関して設定される規制・制限の中で、代表的なものには「高さの制限」があります。実際に、市街地に立地する建物の高さは、各種計画制度に基づいて定められる最低・最高限度の内容に適合するように決定されます。また、用途地域に応じて定められる容積率、建蔽率の値も、間接的に建物の高さの規定する要素たりえます。このようなルールの有無や内容は、地域ごとに異なるものであるため、結果として、各地域に立地する建物の高さの分布は、地域に指定されている規制・制限の内容に応じた一定の傾向をみせることになります。

今回は、この「建物の高さ」に着目して、東京都心部の詳細な建物の高さデータに基づいて、各地域の建物高さを各道路単位で集計し、その分布の傾向を定量的に視覚化します。また、上述したような建物高さを規定する計画的な制度の中で、比較的、空間多様性を持ち、視覚化の用意な用途地域の指定に基づく容積率・建蔽率との関係にも合わせて着目して考察してみます。

 

対象地域と利用データ

東京 23 区内から千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区の 5 区を対象地域として選定しました。

また、建物の高さを含む建物データには 3D 都市モデルデータ(国際航業、データ計測年は平成 23 年 3 月)を利用し、建物高さの計測値が 3.0m 未満のものは分析対象から除いています。また、以下では、対象地域内の建物の高さを、地域内の道路を単位として集計を行っていきますが、集計を行う道路データには、住友電工デジタル道路地図( 2009 年版)を用いています。さらに、考察で用いる容積率・建蔽率や鉄道駅の分布に関するデータは、国土数値情報ダウンロードサービスにより提供されるものを用います。特に、後者の鉄道データは、各駅の線データをその中心点の位置で代表して用いています。

1 :対象地域

 

■ 各区内の道路沿道の建物高さの分布傾向

まず、地域内の各道路の沿道に立地する店舗を対象に、その平均高さを集計しました。区ごとにその集計結果を示し、簡単な考察を加えたものを以下に掲載します(集計方法の詳細は、末尾の付録をご参照ください)。

 

(各区のリンクをクリックすると、該当ページの説明がポップアップします)

1、千代田区

2、港区

3、中央区

4、新宿区

5、文京区


また、ここまでは、各道路の沿道に立地する建物の高さの平均に着目してきましたが、各道路沿道の建物の高さのばらつきも、街並みとの関係を考える上で重要な指標の一つになると考えられます。建物高さのばらつきは、たとえば、街並みのリズムやスカイラインを形成する要素であるといえます。特に後者のスカイラインは、地方自治体の策定する景観計画の中でもしばしば目にする用語です。本来であれば、この街並みのリズムやスカイラインについてより詳細に考察・言及をするためには、個々の建物について、いかなる高さの建物がどのようなパターンで隣接しているのか、ということを考える必要があります。ただし、今回は、「地域内の道路ごとに沿道の建物高さを集計した結果からわかること」、という観点で分析・考察を行っていますので、ここでは、各道路の沿道の建物高さのばらつきの大小のみに着目し、実際の市街地特性との関係性から、そのような建物高さのばらつきが生じる要因について考察を行うこととします。この場合、沿道の建物の高さのばらつきが少ない場合には、街並みに対して静的な印象を感じ、一方で、沿道の建物の高さのばらつきが大きい場合には、動的な印象を感じる可能性が高いと考えられます。

図6は、各道路沿道に立地する建物の高さの分散の値を示しています。

図6:対象地域の各道路沿道の建物高さの分散の値の分布

 

道路の色が濃い茶色に近づくほどその道路の沿道に立地する建物の高さにはばらつきが大きく、その一方で、薄い黄色に近づくほどその道路の沿道に立地する建物の高さにはばらつきが小さいと考えることができます。

先ほどの図 2~ 図 5 における各道路の沿道の平均建物高さを示した結果と比較してみると、文京区や港区の西側のように建物高さの平均値が低い地域ではそのばらつきが小さく、中央区や港区の東部などの、建物高さの平均値が高い地域ではそのばらつきが大きいことがわかります。この理由としては、次のようなことが考えられます。

前者のような地域では、建蔽率や容積率の限度が比較的小さい値に設定されており、例えば、容積率を建蔽率で除した値が 3.0 以下にあたるような地域は、低層住宅地である可能性が高いといえます。そのような場合には、計画的な制約から建築可能な建物の最高限度はそう大きくならず、比較的低い高さの建物が立ち並ぶことで、相対的に高さのばらつきが少なくなると考えられます。特に、一戸建てが立ち並ぶ住宅地を想定してみれば、一般的にはそれらの階数は 1 〜 2 階建てのものがほとんどでしょうから、そのような結果になることも想像がつきます。

その一方で、後者のような建物高さの平均値、ばらつきが高く示されている地域に該当するのは、東京でも有数のオフィス街を含む地域である事がわかります。これらの地域では、容積率を建蔽率で除した値も比較的高く、先の田町駅の例のように再開発等促進のための容積緩和をうけているところもあり、計画的な制約条件の面から、高い建物を建てることが可能な条件は整っているといえます。また、建物の容積上限は設定されているものの、その範囲内で多様な建築計画を立てることができると考えられます。これらの地域では、低層住宅地が存在するような地域と比較すると、容積の上限は大きい傾向にあるため必然的に立地する建物の形状は多様になることが予想されます。さらに、これらの地域における建築物は、オフィスビルや用途複合ビルなどが立地する傾向にあると考えられます。このような建物においては、例えば建物高さが類似しやすくなる低層の住宅などと比べると、与えられた敷地の広さや建物としての用途に適した各階の床面積、維持管理の問題、工費やテナント入居を想定した採算性など、建物の形状を決定する際に考慮すべき目的や制約が多岐にわたることが予想されます。そのため、異なる敷地に同じ容積の建物を建てる場合であっても、敷地を大きく使って各階の床面積を広くとって階数(高さ)を抑えるような建築の仕方や、逆に、敷地内に空地を配置して建築面積を抑えた上で、より階数(高さ)を増やすことも考えられます。このように、建物の建築に関わる事業主体の多様な意向が反映されることで、前述の低層住宅街と比較して、多様な高さの建物が同一の道路沿道に立地することになるのではないか、と考えられます。

最後に、各道路の沿道の建物高さの平均値の分布と、容積率と建蔽率の値、特に両者の比との関係性について考察してみます。ある敷地において、各階の床面積が一定な直方体の建物を建てることとし、容積率と建蔽率を目一杯まで消化するように建物が建てられると仮定した場合には、容積率を建蔽率で除した値はその建物の階数を表す指標として考えることができます。例えば、容積率 200% 、建蔽率が 50% の指定が成されている 100 坪の敷地の例であれば、建蔽率の値から建築面積の限界は 50 坪、容積率の値から延床面積の限界は 200 坪となりますから、上記の過程のもとでは 4 階の建物が建つことになります。

7 は、都心 5 区の各道路の沿道の平均建物高さと、各地域に指定された容積率と建蔽率の比を比較したものです。

7 :各道路沿道の建物高さの平均値と容積率 / 建蔽率の値の分布の関係性

 

この図からわかるように、容積率を建蔽率で除した値と各道路の沿道の建物の平均高さの空間的な分布は概ね同様の傾向を見せていることがわかります。

例えば、対象地域北部の文京区では、広い範囲で、容積率を建蔽率で除した値と各道路の沿道の建物の平均高さともに低い値を取っていますが、地域東部の中央区では広い範囲でどちらの指標も高い値を取っていることがわかります。

その一方で、容積率を建蔽率で除した値はそう大きくないにも関わらず、沿道の建物の平均高さが大きくなっている地区の存在も散見されます。例えば、対象地域の南端部付近の田町駅の東地区がそれに該当します。

8 :田町駅東口地区周辺の建物高さの分布状況

 

この地区の周辺では、本来の容積率 400 %、建蔽率 60 %の地区でありますが、地域一帯が

港区の再開発等促進区を定める地区計画の指定区域となっており、建蔽率は 60% のまま容積率が 850% と緩和されています。このため、この地区ではより高い建物を建てることが可能となる結果、沿道の建物の平均高さが大きくなっていると考えられます。

 

■  まとめ

今回は、東京 23 区の中央部に位置する 5 つの区を対象に、地域に存在する道路を単位として、その沿道に立地する建物の高さの平均値やばらつきの値について視覚化を行い、各指標値の分布傾向について地図上からわかることを中心に考察を行いました。集計により得られた分析結果は、おおむね現実の各地域の状況を反映している結果となっていたことから、今回の集計方法は、広域にわたって立地する建物高さの分布傾向を大まかに把握するための簡便な方法として用いることができると考えられます。

もちろん、このような定量データから街並みの様子やその形成要因をより詳細に把握しようとするのであれば、隣接する建物の高さの連続性や多様性を考慮していく必要があると考えられます。また、各建物が立地する道路幅員との関係性を分析することで、各道路沿道の解放・圧迫感についても議論することが可能になるといえるでしょう。さらに、今回は考察の対象から外してしまった、他の計画的な規制・制限の存在が建物高さの分布に与える影響を考察することもできるといえますが、こちらは今後の課題とさせていただきます。

 

 

■  付録:各道路沿道での建物高さの集計の方法について

このコンテンツ内において、各道路の沿道を単位とした建物高さの集計を行う際には、 Arc Map10.0 を使用して、以下のような手順を取りました。

 

1, 建物高さのデータを有する建物データについて図形の重心点の位置を計算・抽出する

2, 各建物は、その重心点からみて最も近くにある道路の沿道に立地するものと仮定して、各道路と各建物の対応付けを行い、各道路の沿道に立地する建物の平均値や分散の値を計算する。

 

※  都市内には、空き地や駐車場など、建物が立っていない空地が存在しますが、今回の集計ではそれらの空地の存在は考慮しておらず、各道路沿道におけるその存在の有無は、各集計値に影響を与えないものとしています。

※ 複数の道路に面する建物(たとえば交差路の交差部分に立地する建物)については、本来であれば、その 建物が面する複数の道路について建物高さの集計に含められるべきですが、 手順 2 のような集計方法をとっている都合上、一つの建物と一つの道路が 1 対 1 で対応して集計されることになるため、ここで図示した指標値には、各指標を厳密に計測した場合の指標値とは若干の誤差が生じていると考えられます。