園田: 現在ご一緒にお住まいのご家族は?

市原市 N邸

Nさん 義理の母親、私達夫婦と長女夫婦、次女、孫二人の8名です。 義理の母親は今入院していますけれど、この建物を設計してもらうにあたって、半身不髄の母親の将来のことを考えて、設計してもらったんです。その母親の生活がスムーズにできるような環境を作ってもらいました。 また、最近マスコミで、バリアフリー=高齢者対応となっておりますが、高齢者だけではなく、幼児や子供も生活しやすいユニバーサルでザインの環境をつくりたいと考えました。




Nさん: うちの家族は、私達夫婦、若夫婦、おばあちゃんと核家族的に考えると、3世帯分ぐらいが集まって住んでいるのですが、普通に考えればダイニングテーブルのセットも3組ぐらい必要になってきます。しかし、それらがバラバラにあると、アパートに住んでいるようになってしまうので、大きな30帖くらいのリビングルームをつくり、この家の中心にしています。その場所の上は天井まで吹き抜けにして、下の話声が2階や3階にも聞こえ、密室をつくらないような空間にしています。ただ寝室などのプライベートの空間は防音に気をつけています。

家の中心のリビングルーム
園田: そうすると、プライバシーは守りながらも、気配はわかるようにしたわけですね?
Nさん: そうです。家族が食事をする、お客さまをもてなす、何げなく家族で話をする等のパブリックな部分はリビングを中心に一つの空間になるようにしています。






Nさん: この家で一番力を入れた箇所はスロープの設置と段差解消です。まず、玄関にスロープを設け、スムーズに家の中に入ることができます。また、浴室や、トイレ、応接間、リビングが車いすでスムースに移動できるようになっており、全て段差がありません。床もすべてフローリングにしました。そして、年寄りには寒暖の差が危険ですので、1階は浴室や脱衣室、トイレも含めたすべての部屋に床暖房をしています。
車いすでも不自由なくアクセスできる広い玄関



Nさん: 年寄りになるとトイレに長く入るようになります。大家族で朝忙しいときにそうなると困るので、この家にはトイレが1階に3ケ所、2階に1ケ所あって、身障者用のトイレも一つあります。そこが母親のトイレとなっています。  



Nさん: 母親の生活スペースは1階なのですが、当初は2階に行くこともあったので、階段の設計には特に気を使ってもらいました。 階段の蹴上げは義理の母親の足のあがる高さ以内で、そして、両足をそろえて、利き足であがるので、踏み面をなるべく広くとってもらいました。

お母さまのことを特に考えた階段。


園田: そうすると緩い勾配で、ずい分昇り降りしやすそうですね。
Nさん: そうです。そして、普通は階段に滑り止めがついているのですが、お年寄りは感覚が鈍っていて、へこんでいる状態の溝ですとわかりません。階段にのっているかがわからなくて、事故になるということが多くあるので、私の家では滑り止めをへこますところを、逆にもり上げました。そのことによって、足の裏の感覚で階段にのっているかがわかりやすくなり、安全に階段を昇り降りできるようになりました。 また、踏み面を広くすることによって、孫も階段から万が一落ちたとしても1段で止まるようになっています。ただ、そうすることによって、普通の階段の3倍くらいのスペースが必要になりましたけれど、安全性の面で仕方ないと思います。




園田: 自慢のポイントなどはどこですか?

風がぬける吹き抜け
Nさん 自慢というより、失敗のほうが多いのですが。自慢といいますと、設計の当初はバリアフリーという言葉もあまり使われない時代で、自分もあまり意識していなかったのですが、母親が車いすだったものですから、車いすでも、ごく普通にいかに家族の横に座らせられるかということだけを考えました。それが結果的にバリアフリーということになっていました。まあ、あえて自慢というと、1階は車いすでどこの部屋にもいけるということです。仏壇のある部屋から、どんな部屋でも、行けない部屋はないということが自慢です。あと、天井が吹き抜けているので、1階から天窓まで風が抜けて行きます。そうすることによって、この家に連続性が生れました。ただ、空調などの維持経費が高くつくのが難点ですが・・・。




園田: お孫さんが大きくなったり、これからご家族にも変化があると思うのですが、どういう風に住みこなしていくとか、次にお考えになっていることはありますでしょうか?
 
Nさん この家をですか?
園田: はい、ご自身のこれからの生き方とか、ご家族の生活を含めまして。
Nさん 私は男一代に3軒家を建てろと父にいわれまして。まだこの家で2軒目で、3軒目はちょっと無理ですが、気持ちの面ではもっと良い部屋をつくりたいとは思ってはいますけど。
園田: もし差し支えなければ3軒目で描かれている構想などをお聞きしたいのですが?
Nさん これから、ホームエレベーターは絶対に必要になってくると思います。そして、そのエレベーターもストレッチャー用のものが必要だと思います。年をとればとるほど、高いところで寝たいという思いが強くなるからです。一般的には子供が上の方に寝ていて年寄りは下に寝ています。それは、避難のことや、プライベートの空間のことなどでそうしているのですが、年をとると老人ホームなどでもそうなのですが、なるべく高い階の方がよいというお年寄りが多いです。マンションなども最上階が値段が高いです。そのため、車いす用の家庭用のエレベーターではなく、ストレッチャー用で寝たきりの状態でも、そのまま上へ上がれるようなものが必要になってくると思います。
これから在宅福祉が進んでくれば、ホームヘルパーなども活用しやすくなると思いますが、そのときに家で風呂が入れないということがないように、寝たきりでも、車いすでも入れるようなスペースがお風呂にはあらかじめ必要になるのではないかと思います。あと、太陽熱エネルギーなどを取り入れた省エネルギー住宅にしたいです。
園田: 3軒目もご家族一緒に住まわれますか?
Nさん はい。原則として、家族は離れては家族ではないと思っているので、下の娘が結婚しても、遠くに行かない限りは一緒に住めるようにと考えています。家族にとっては家がとにかく中心ですから。また、お客さまもいつ来ても泊れるような、そんな 家が建てられたらよいなと思っています。

聞き手:園田眞理子
#1 人生の実りを心行くまで味わう住まい