園田: この家はいつ頃建てられたのですか?

Nさん 6年半前です。
園田: 建て替えられたのですか?
Nさん 主人の母が、12年間一人で暮らしていたのですが、加齢を機に同居することにし、それまであった家を建て替えました。
園田: 今お住まいの方は?
Nさん 母と私達夫婦と24才の娘の4人です。
建てた当時は大学生だった息子もいましたが、一昨年結婚して独立しました。今年の10月には娘も結婚しますので、3人になってしまいます。




園田: お母さまのお年はおいくつですか?
Nさん 83才です。建て替えたときは、77才でした。
園田: 一般的に、ご高齢の方だと、建て替えにはパワーもいりますし、建て替えたあと新しい環境に馴染むのは大変だと思うのですが?
Nさん 不安はあったと思います。 最初はそれまで私達が住んでいた横浜にきて欲しいと思ったのですが、どうしても船橋から離れたくないようでした。 一人でも生きていけるとは言っていたのですが、私の母が亡くなったときに、主人と母が話し合って、一緒に住もうかということになりました。
園田: では、横浜から引っ越しをされるときに抵抗はありませんでしたか?
Nさん 当時娘はまだ高校生だったので、娘が大学に入る2年後に引っ越しをしようと決めました。
園田: 建て替えようと思ってから、家が完成するまで2年くらいかかったわけですね。 設計に時間をかけられたのですか?
Nさん そうですね。1年以上は設計にかかったと思います。工事は半年くらいで終わりました。




園田: 同居がきっかけで設計を依頼されたということですが、これだけはお願いしますというポイントはあったのですか?

左:アトリエ 中央:離れ


母の友人の接客や趣味を行う離れ。
Nさん 母との同居が前提だったので、まず、母のこれからの暮らし方を設計者とよく話し合いました。 母は12年間も一人で暮らしていたので、わりとのんびり暮らしていたみたいなのですが、同居してもいつもやっていた趣味が出来て、プライバシーが守られ、それでいて、なにかあった場合には見てもらえるような、つくりにして欲しかったそうです。最初は玄関も二つありました。 1階の離れづくりの部屋(趣味をしたり、友だちを呼ぶ部屋)と寝室が、母のエリアで、皆のリビングとの間に浴室と便所を設けています。
園田: その他の設計上のご希望は?
Nさん 庭が家と一体化したような空間にしたいこと、塀などを立てるのではなく、町並みに調和するような、住まいにしたいという希望は出しました。



園田: 設計に際して、最優先に望まれたことは?

釜場


40人の生徒が週4回通う陶芸教室
Nさん ライフスタイルを最優先にしました。私は陶芸をやっていたので、釜場は絶対につくりたいと思っていました。今は陶芸教室をやっています。子供がいなくなったときに、主人と二人で、余生をのんびり、自立してすきなことができるライフスタイルを設計者が汲み取って設計してくれました。
園田: 今までの生活と、後半の生活をいかに充実させるかということを考えられたのですね。
Nさん 余生を充実したいと思ったんです。同居ということから、そのように考えるようになったのかもしれませんが、第二の人生を楽しみたいという意味であえて「余生」を考えてみました。そのために、私は陶芸を第一に考えて、設計してもらいました。



園田: 間取りはどうなっているんですか?  
Nさん 1階にリビング、ダイニング、母の寝室、アトリエ、客がきたときに泊れるような和室があります。2階に子供の部屋と私達の寝室があります。



園田: お母さまの部屋で特に注文されたことはありますか?

ミニキッチン付きの
親の寝室
Nさん できるだけ自立して生活したいということから、母の寝室には流しや、電気調理器、冷蔵庫等があります。
園田: お風呂は?
Nさん 共同です。水廻りで、母のスペースと1階のパブリックな部分をわけています。真ん中が共同エリアで、トイレ等もあります。
園田: 食事などはどうなさっているのですか?
Nさん 朝と晩だけ一緒です。今私がちょっと忙しいものですから、母には自立してもらって助かっています。



園田: 先ほど庭と家の関係についてお話をされていましたが?

すべての部屋から見渡せる娑羅の木
Nさん 庭が家の中に入ってくる。そして、家が庭に出ていくことで、庭と家との一体感をだしたいと考えました。具体的にはリビングのところに庭が入り込んでいて、反対にアトリエは、庭に向かって少し突き出すような形になっています。また庭は全部デッキにしてもよかったのですが、あえて廻廊風にして、母の部屋と行き来できるようにしました。そして、庭の真ん中にどの部屋からも見ることができる木を植えました。
園田: 何の木を植えられたのですか?
Nさん 娑羅の木を植えました。 いろいろな樹種を考えたのですが、この木をみて、これだと思いました。



園田: ご家族がそれぞれが良い意味で積極的な余生を過ごしていらっしゃるわけですね?

段差のない廊下 


風の溜まるデッキ
Nさん 一緒に暮らし始めてみて、一番難しかったのは、お互いのライフスタイルの違いです。干渉しあわない方がいいなと思いました。このスペースのお陰で、とてもよい家族関係ができていると思います。母のスペースは母の好きなようにできるようにしています。
園田: これから先についてはどう思いますか?
Nさん たとえ車いすになっても生活できるように、通路や浴室には段差もありませんし、手すりの下地も入れておきました。
園田: お子さんが独立されて、お部屋があまると思うのですが?
Nさん これから先のことはまだあまり決めていません。ただ、2階をグループホームにして、陶芸仲間と一緒に暮らしても良いかなと考えることもあります(笑)。2階には台所もありますし。 陶芸は年寄りにもむいていますし、好きなことをやっていけたらと思います。

聞き手:園田眞理子
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