郊外未来デザインに迫る:俯瞰と仰望

東京大学先端科学技術研究センター 教授    小泉  秀樹
     特任講師 後藤智香子
     特任助教 矢吹  剣一

 (一社) 住宅生産団体連合会の成熟社会居住委員会では、ハウスメーカー・不動産会社がこれまで開発・供給してきた郊外住宅団地の再生の検討を進めております。今回、同委員会の「高齢者住まい方ワーキング」及び「まちな・み力創出ワーキング」では、東京大学先端科学技術研究センターの小泉先生、後藤先生、矢吹先生から、地域と企業、大学の連携による郊外再生実践についてお話をうかがい、ハウスメーカー・不動産会社としての郊外住宅地再生への取組みについて意見交換を行いました。

(1) 郊外の俯瞰

1) 郊外住宅地再生社会連携研究部門について

 最初に、2019年10月に設置した、郊外住宅地再生社会連携研究部門の枠組みについてお話いたします。大学だけではできない、そして企業だけでもできない、郊外住宅地の再生手法の創出を、産官学が連携した研究と実践活動により行うことを目的としています。現在ご協力いただいている企業は、大和ハウス工業株式会社様、ミサワホーム株式会社様、株式会社東急不動産R&Dセンター様、NECソリューションイノベータ株式会社様の4社です。本日の講演でご関心をもっていただける企業様がおられましたら、ぜひ私共にご連絡いただければと思います。
 参加研究者は本日お話させていただく3名の他にも、小田急電鉄様でMaaSを実践している藤垣洋平氏、やはり都市交通専門の高見淳史氏、こま武蔵台の再生に関わっており住宅・都市解析が専門の樋野公宏氏、建築専門の大月敏雄氏と李鎔根氏、東大以外からは園田眞理子氏、室田昌子氏、阿部千雅氏がおられます。
 研究内容は郊外住宅の俯瞰的・広域的なスタディと個別地区のケーススタディです。個別スタディの対象は、①こま武蔵台 (埼玉県日高市)、②上郷ネオポリス (神奈川県横浜市)、③新百合ヶ丘 (神奈川県川崎市)、④めじろ台 (東京都八王子市) の4地区です。
 この度、2021年3月までの取組みを1冊にまとめたプロジェクトレポートを刊行しました。URLからPDFデータのダウンロードが可能です。
 https://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/content/000015443.pdf
 印刷物が必要であれば配布いたしますので、東京大学先端科学技術研究センター郊外住宅地再生社会連携研究部門までご連絡ください。
 https://futuredesignsuburb.org/

2) 首都圏郊外住宅地の状況

 首都圏の郊外住宅地を俯瞰的にみた分析についてご報告いたします。使用したデータは国土数値情報「ニュータウンデータ」です。これは国土交通省作成「全国のニュータウンリスト」を原典資料に、地理情報システム(GIS)で分析できる形で公開しているものです。
 皆様ご存じの通り、ニュータウン開発は1970年代にピークを迎えました。これは全国的な趨勢と首都圏1都4県の趨勢はあまり変わりません。開発地区数・面積共に、ニュータウンの3割から4割が首都圏に集中しています。
 事業手法に着目して分析しますと、首都圏・首都圏以外共に、土地区画整理事業による開発地区数・面積が最も多くなっています。区画整理以外の、開発許可や新住宅市街地開発事業、公的一般宅地開発事業による割合は、首都圏以外で高くなっています。そして区画整理による地区において人口減少が緩やかになる傾向があります。
 首都圏における特別区への通勤圏は、1990年から2015年にかけて、“遠郊外”と呼ばれる概ね60km圏域に拡がっています。一方で通勤率は全体的に低下しています。つくばエクスプレスといった新しい鉄道開発などで都市部が拡大していますが、郊外に暮らして都心で働く人の率は下がっています。
 コロナの影響による郊外への人口流出が取沙汰されていますが、本当にそういうことが起こっているのかについて、三大都市圏における2018・2019・2020年の都心からの転出者数を調べました。東京特別区からの転出者は2019・2020年で増加していますが、大阪市・名古屋市からの転出者は若干減少しています。首都圏で転入者が増加した地域は、都心から60km圏域の市町区村が多く、特に南房総地域や湘南地域、茨城県南部などにおいてその傾向が顕著となっています。首都圏での人口増減を見ますと、多摩丘陵地の特に東急田園都市線沿いと、つくばエクスプレス沿線の人口が増加していますが、埼玉県西部や千葉県の内房地域、横浜市南部など、都心からのアクセスが1時間半くらいかかり、ニュータウン開発が行われたところでの人口減少が見られます。