郊外住宅団地の実態と再生
「郊外住宅団地の再生〜コトづくりから住民主体のまちづくりへ〜」
大和ハウス工業株式会社ヒューマン・ケア事業推進部 瓜坂和昭
成熟社会居住研究会では、これまでハウスメーカーが建設を進めてきた郊外住宅団地の再生に取り組んでいます。今回は大和ハウス工業株式会社による再生の取組についてのご講演をいただきました。
(1) なぜ郊外住宅団地再生に取り組むのか?
大和ハウスグループは“人・街・暮らしの価値共創グループ”として、“明日不可欠の (アスフカケツノ) 社会課題”に取り組んでおります。“明日不可欠”とは、「安全・安心」「スピード・ストック」「福祉」「環境」「健康」「通信」「農業」の頭文字を取ったもので、新規事業開拓のキーワードとしております。その中でヒューマン・ケア事業推進部では“充実ネクストライフを生きる”ことを事業領域にしています。
現在の日本は全世帯の約半分に高齢者がおられます。さらに全世帯の4件に1件は高齢者の一人住まい又は夫婦のみの世帯です。そして65歳以上の8割は健常者です。団塊の世代は今年69歳〜71歳になる方々ですが、かつての高齢者のイメージではなく、消費に積極的で、自分の趣味にお金を使う方々です。現在の住宅団地に住まわれている方々は主にこの年代なのですが、1人住まいの男性の中には、1週間誰とも喋っていないような人がいるのです。つまり住宅団地は、元気ですが寂しい1人暮らし高齢者の集積地となっています。
そのため弊社は、今更かもしれませんが、住宅団地に戻って再生しようという取り組みを行っています。創業者である石橋信夫の教え「何をしたら儲かるではなく、どういう事業が世の中のためになるか考えろ」が弊社の新規事業の取り組み方ですが、これでは儲からないということも必ず言われます。しかし、31歳から40歳が想定されてきた住宅一次取得者層が、1980年から2025年には34%、665万人減少してしまいます。そのため新築住宅着工件数も2015年の89万戸から2025年には64万戸と、10年間で28%減ってしまいます。
先ほどの国土交通省山下室長のお話にもありましたように、ニュータウンがオールドタウン化しています。高度経済成長期につくられた団地が全国で約1000カ所以上あって、約840万人の方が長年そこに住まれていました。弊社も同じく、昭和45年の大阪万博の年から、昭和59年までの15年間に61カ所の団地を開発しました。入居当時の年齢を35歳とすると、今や69〜83歳ということですね。団塊の世代が丁度70歳前後ですけども、団塊の世代が後期高齢者になるこれからの5年が勝負で、団塊の世代が元気な間のモデルづくりに取り組んでいます。
私たちの目指すキャッチフレーズは「安心して年をとることができる暮らし」の実現です。今回のスマートウェルネス推進事業の住宅団地部門の補助申請を提案申請しているところです。
(2) 上郷ネオポリスの現在
弊社では上郷ネオポリス (横浜市栄区) と、緑が丘 (兵庫県三木市) の再生に取り組んでいます。
上郷ネオポリスは、JR港南台駅と大船駅、京急線金沢八景駅の三角形の真ん中くらいに位置しています。環境には非常に良いところで、横浜は30分ぐらい行けるんですけども東京までは1時間近くかかります。港南台駅からこの団地までバスで20分くらい、乗用車で10分ぐらいの距離です。開発当時は東京や横浜に通ういわゆるベッドタウンの価値がありました。今や栄区の中でも一番高齢化率の高いところで40%となっています。人口は約2000人で世帯数は900世帯です。栄区自体が横浜市の18区の中で、最も高齢化率が高く、都心から30km、40km圏内で最も空き家が増えそうな区となっています。
上郷ネオポリスをこのまま放置していくと、10年後には全部の世帯の約13%である115件が空き家になるだろうと予測されています。空き家115件のうち、死亡による空き家が64件、転居 (施設入居等含む) による空き家が51件です。現居住者が安心して生き生きと住み続けられる環境づくりと同時に、若年層など外部からの転入者を呼び込む魅力づくりが求められています。