総 評
人・家・まちがみずみずしくつながる表現において今年の作品も示唆に富む力作がそろいました。そこに流れている視点や特徴 をあげてみましょう。
第1 に、「体験」は生き生きとした絵と文字を通して、その意味を明らかにしていきます。『みんながすみやすい町』にみられ る自らの車椅子体験は「公共空間に動く歩道」等の新しい提案発想を生み出します。『木の家のたてかた』では、木の家を建てる 体験から、家の組み立ての詳細の中に、大工さんの技の中に、心をこめてかかわる意味がにじんでいます。秀れた体験表現絵本は、 具体の表現を通して、生きること・住むこと・つくることの意味を伝えてくれるので、感動を呼びます。
第2 に、「時間」の視点をとりいれた絵本は、人・住まい・まちのかかわりの瞬間や持続の価値をあらわしてくれます。『じぃじぃ のまち』では、三世代が住み継ぐ持続の表現を通して、継承に値するタカラがみえてきて、次世代のまちへの誇りの気持が育まれ ていきます。『ねえ、』では、自転車の故障の瞬間はトラブルだと思ったのに、その出来事が幸せな出会いの別の瞬間を生み出すこ とが示されています。瞬間と持続を劇的にとらえる見方が大切です。
第3 に、「物語」の面白さ、ユニークさは、生きること、住まうことへの想いにはずみを与えてくれます。『もし、やさいに、すめ たなら?』は、表題だけでも人と生き物との親和性への発想を示唆してくれます。『すてきなおにわ』は、子どもとおばあさんの 出会いから、実際にあってほしいと思えるイメージを喚起する筋の運びとほのぼのとした絵が人を引きつけます。
なお、最後にヴィジュアル表現に生彩を与えてくれる点では、のびやかなダイナミックな描き方から、緻密な細部にこだわりの ある描き方まで、また日本の伝統的起し絵から、最近はやりのマスキングテープの活用等、多彩にして多様な表現技法に創意をこ らすことも大切です。
今年の秀れた成果に学びながら、来年以降さらなる感動と驚きのある住まいとまちの絵本が創作されることを期待しています。
2012 年 秋
第8 回「家やまちの絵本」コンクール審査委員長
愛知産業大学大学院造形学研究科 教授 延藤 安弘
審査委員 | 応募総数 : 926作品 | ||
---|---|---|---|
小澤 紀美子 | (東京学芸大学 名誉教授 東海大学 教授) | 子どもの部 | 305 作品 |
町田 万里子 | (手作り絵本研究家) | 中学生・高校生の部 | 473 作品 |
大道 博敏 | (江戸川区立平井西小学校 主幹教諭) | 大人の部 | 20 作品 |
勝田 映子 | (筑波大学附属小学校 教諭) | 合作の部 | 128 作品 |
加古 貴一郎 | (国土交通省住宅局 木造住宅振興室長) | ||
仲田 正徳 | (住宅金融支援機構 CS推進部長) | ||
鳥巣 英司 | (都市再生機構 カスタマーコミュニケーション室長) |
||
佐々木 宏 | (住宅生産団体連合会 専務理事) |
モモ |
|
相澤 更 -自由の森学園高校1年(埼玉県)- | |
講評: ネコの生き方を通して、子どもの生き方を伝えるホノボノした表現。ミ ヒャエル・エンデの『モモ』が「時間ドロボー」を批判したように、こ の絵本のネコのモモは、常に「いま・ここ」を充実させた生き方を生命 のように大事にする視点を届けてくれています。トキの流れがみずみず しくやさしく描かれる絵画表現が、物語性を支え高めています。 |
日本を歩く少年少女 | |
フカザワ テツヤ (東京都) | |
講評: 左から読むと「女の子の旅」、右から読むと「男の子の旅」。中程で出会 う駅に止まる列車のたたずまい。どの見開きページも、夫々に物語性が こもる印象的な絵と、詩的な短い文の組み合わせは、見るものを引きつ けてやまない。希望の翼をさがし広げるストーリー性があざやかに全体 をくみたてています。とってもきもちの安まる掌中絵本ですネ。 |
こんなおうちがいいな |
|
後藤 瑠里香 -徳育幼稚園年中(東京都)- | |
講評: 下関から東京へお引越しをした、るりかちゃん。あたらしいおうちは、「す ごいせまい」。その落差と驚きが画面いっぱいに表されています。でも、 楽しいこともいっぱい待っていました。新しい幼稚園に通うどきどき感。 「やぎみたいにやさしくなりたいな」という温かい思い。新しいくらしへ の希望や夢がストレートに伝わって来る絵本です。 |
ネネちゃんのおかいもの |
|
佐藤 里緒菜 -春日部市立中野中学校2年(埼玉県)- | |
講評: 切り絵による作品だが、所々にポップアップのページもあり、変化に富 んだつくりになっています。また、色づかいも美しく、野菜や果物など 細部にも気を配った様子がうかがえます。お話としては、主人公の子ネ コ「ネネちゃん」のはじめてのおかいものを通して、町の様子や出会っ た人々(?)の交流をほのぼのと表しています。 |
みんなのおうち |
|
荒井 麻莉菜 -愛知県立一宮高校3年(愛知県)- | |
講評: 全ページ巧みな切り絵で構成されています。そして、何より ポチの家づくりから地球環境に至るお話の展開がおもしろ い。暮らしの中の些細な出来事が様々な形でつながっている 事を、短いお話の中でよく表していて、メッセージ性のある 作品となっています。 |
ひみつきち |
|
深津 早希 -浜松工業高校2年(静岡県)- | |
講評: 左ページ、文字の部分を色とパターンのみの変化とし、右側ページにイ ラストを配した構成が本作品の特徴となっています。また、全体的に抑 えた色調と色鉛筆で描かれた線もとても美しく、文章自体もリズミカル です。お話の内容はネコの目を通して語られていますが、何気ない言葉 からこの家の家族構成や一人一人の性格も読み取ることができます。 |
人間のまちに住む |
|
住徳 若菜 -長崎県立西彼農業高校2年(長崎県)- | |
講評: トマトをこれほど愛らしく表すとは恐れ入りました。そして、 なんといっても巧みなイラスト。トマトのまーくんが作品の中 で生き生きと躍動しています。左ページの文字の配列もよく考 えられていて、筆づかいから影の入れ方、全体的な構成に至る まで、とても完成度の高い作品となっています。 |
春になると |
|
津森 三佳 -大分東明高校1年(大分県)- | |
講評: とても読みごたえのある一作です。幼い姉妹がおばあちゃんの家へ行 く場面、特に駅の様子はとても雰囲気のある絵になっています。ま た、おばあちゃんの家がある町の様子もよく表されています。過去と 今、都市と田舎など、時の流れや場所の違いなども二人の姉妹とおば あちゃんの目を通して、何気なく語られている点もよくできています。 |
ともだち |
|
工藤 佳織 -大分東明高校1年(大分県)- | |
講評: 手書きの線を極力抑え、大部分をマスキングテープで表すなど、 センスのよさが窺える作品です。家の中で飼う小鳥との日常の ストーリーの中に、命と時の流れを考えさせます。普段の一日 一日をいとおしく暮らすことの大切さを、しみじみと表してい ます。 |
ねことクローバー |
|
笹平 のどか -横浜市立青木小学校2年(神奈川県)- 笹平 登茂子 |
|
講評: 庭で四葉のクローバーを見つけたねこちゃんの幸福な1 日 がほのぼのしてちょっとユーモラスな絵と詩のようにリズミ カルな言葉で表現されています。あたり前のような日常のさ さやかな出来事から小さい幸せを見い出す喜びが伝わってき ます。母と子の何とも素敵な合作です。 |
まぼろし商店街 |
|
星野 英俊、青山 恵子 -神奈川県- | |
講評: 元気をなくした商店街、いわゆる「シャッター通り」を名前 通りの「ハッピー通り」に再生したいという願いがこめられ た作品。人々の中に潜在する「ハッピー通り」の思い出を引 き出すこと、行動することの大切さが、シンプルで美しい絵 とストーリーで表現されています。 |
横浜市立末吉小学校2年1組一同 -神奈川県- | |
講評: ドキドキワクワクのまちたんけんの成果が、31 人の子どもたちが 描いた31 枚の絵に魅力的に表現されています。いつも見ている、 知っているはずの自分たちのまちも、仲間といっしょに巡れば大 きく感じられたり、新しい発見があったりします。全員集合の笑 顔に飾られた表紙と最終頁のたんけんの地図が遊び心を誘います。 |