総 評
今年度も私たち審査員を感動のトリコにしてしまう秀れた絵本に沢山出あえました。そこに共通する住まい・まちの物語絵本創作の大切なことは3つあります。
第1に、住まいやまちの育みをめぐる主人公と場所の設定如何において、物語が起きる可能性を秘めていることです。「あのね ねこってね」「きょうりゅうのアイスクリームやさん」「海の中の駅」「地下」等には、設定された主人公と空間のかかわりの筋の展開にそって、楽しい住み方や多様な出会いのあるまちの劇的な進行が、とってもわかりやすく面白く描かれています。
第2に、創造的住み方やまちづくりにおける現実世界と想像世界の結びつきの滑らかさがあげられます。現実の貧しさや問題を変える物語、あるいは現実の進行そのものが物語となるためには、「みんなちがってみんないっしょがいい」「すてきなおうち」「ぼくのうちはカブトムシ」等に具体的に表現されているように、現実をリアルにみつめつつ、それを越えていくイマジネーション・想像力の翼をひろげる視点・手法が肝要なのです。
第3に、ことばと絵の相互作用如何によって、主人公と場所設定のユニークさ、現実と想像の結びつきを可能にするのです。絵本はことばと絵の相互作用によって、他の芸術形態では成しとげられない創造的表現法になりうる。「みんなちがってみんないっしょがいい」「あのね ねこってね」等には、絶妙にことばと絵がお互いを高めあう補充関係が実っています。「すてきなおうち」は補充を越えて、非現実的なありえない矛盾を通して創造的緊張感を引き出しています。「きょうりゅうのアイスクリームやさん」は、覚えたての文字の自由さと輪かくくっきりの絵の力強さが相互に響きあっています。
住むこととまちのあり方についての批判と提案のこもった住まい・まち絵本の創造には、決して見た目にきれいなものではなく、以上のような創作の㊙がこもっていることに注目したい。
今後も本コンクールがわが国の住まい・まちの育みの方向をさぐるとともに、ホンマモンの絵本創作の登竜門になることを期待したい。
2011 年 秋
第7回「家やまちの絵本」コンクール審査委員長
愛知産業大学大学院造形学研究科 教授 延藤 安弘
審査委員 | 応募総数 : 1,131 作品 | ||
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小澤 紀美子 | (東京学芸大学 名誉教授 東海大学 教授) | 子どもの部 | 404 作品 |
町田 万里子 | (手作り絵本研究家) | 中学生・高校生の部 | 459 作品 |
大道 博敏 | (江戸川区立平井西小学校 主幹教諭) | 大人の部 | 41 作品 |
勝田 映子 | (筑波大学附属小学校 教諭) | 合作の部 | 227 作品 |
藤本 俊樹 | (国土交通省住宅局 木造住宅振興室長) | ||
山品 一清 | (住宅金融支援機構 CS推進部長) | ||
佐々木 宏 | (住宅生産団体連合会 専務理事) |
みんなちがってみんないっしょがいい |
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梅村 郁子 ― 岐阜県 ― | |
講評: 障碍をかかえた自己の人生をふりかえり、何事をするにも時間がかかるけれども、やることは全て誠心誠意やる生き方を誇りをもって綴る感動のストーリー。困っている人たちが協働して助け合いの場づくりと営みを通して、心あたたまる絵とともに笑いをわかちあえる楽しくすごせる「みんなの家」づくりへの夢と現実のおもいが全体に流れている。 |
おばあちゃんち |
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くろせ ゆきと ― 野田市立岩木小学校1年(千葉県) ― | |
講評: おばあちゃんちでの楽しい出来事が、さりげなく綴られた作品です。ザリガニとりをしたり、クワガタやカブトムシをつかまえたり、作者の好きなものが「おばあちゃんち」へ行くとかならず手に入る様子がうかがえます。勢いのある線で伸び伸びと描かれた絵がこのさりげない日常のお話をほのぼのとした余韻を残す作品へと仕上げています。 |
弟は赤ちゃん |
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和田 みゆ ― 東大阪市立高井田東小学校2年(大阪府) ― | |
講評: 赤ちゃんが誕生。7歳のお姉ちゃんが、生まれてきた弟への思いをつぶやきのような言葉と力強い絵でみずみずしく表現している。表紙にも描かれた赤ちゃんは、大きく口を開けて笑い声が聞こえてくるようだ。「大きくなったらいっしょにカフェをしようね」という言葉が楽しい。 |
おかえり |
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江成 晴香 ― 桐光学園高等学校3年(神奈川県) ― | |
講評: 「僕はいったい何をやっているんだろう・・・」。彼はもう何日も家の人と話をしていません。その彼がコンビニで男の子と出会います。手を引かれて町を巡ってみると、そこには生まれた病院、遊んだ公園、抱いていた夢が・・・。やさしい色で温かく描かれている町の景色が忘れかけていた大切なものを思い起こさせてくれる温かい絵本です。 |
どんな家造ろう? |
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松井 比呂 ― 静岡県立浜松工業高等学校2年(静岡県) ― | |
講評: 「家を造ろう」。家族はさっそく意見を出し合います。「窓がたくさんほしいな」「白い壁がいいわ」・・・。さて、一体どんな家になるのでしょう。わくわくページをめくっていくと、突然すばらしい家が飛び出してきます。シンプルな絵と文字の連続から立体への転換が鮮やかで、見る者をハッとさせる絵本です。 |
ふわふわの町 |
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長谷川 朝美 ― 会津若松市第五中学校2年(福島県) ― | |
講評: 実験好きな天才ケンタくんが自分の住む「ふわふわの町」のごみゼロ作戦に乗り出します。しかし一人ではなかなか事が進みません。気を落とすケンタくんにお父さんが声をかけます。「ケンタ。町というのはな、一人でつくるものなのだろうか。ちがう・・・。」町づくりに大切なものは何なのか、作者のメッセージが力強く伝わってくる絵本です。 |
坂の多い街 |
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菅原 楓 ― 東京都 ― | |
講評: 坂が大好きな少年が主人公。「坂は冬は危険」という母。「坂は疲れる」という友人。確かに坂をのぼるのは疲れるし、魔法の世界へ続く扉があるわけでもないが、あたらしい出会い、知らなかったお店。そして上りきって振り向いた時に現れる景色は、上りきったものにしか味わえない感動。日常の何気ない行動から街のすばらしさを気づかせてくれる作品である。 |