|
|
|
|
住まい・まちへの想像力と感受性を育む ―総評にかえて
今年の「家やまちの絵本」コンクールは、前年にもまして、さらに質・量ともにみるべきものが寄せられました。子どもから大人まで、住まうことをめぐる想像力の翼をひろげる絵本づくりの成果をほめあうこの取りくみは、確実に次代のわが国の住まい・まちづくりを想像し感受するココロの訓練・啓発につながっていくでしょう。
今年の作品群の中で、今後に継承し、さらに発展させたい住まいとまちへの想像力の表現世界としては、次の3点をあげることができます。
第1に、発達段階に応じた内容提起と表現手法について、単純に低いから高いの方向へ移行するのではなく、幼なくても、いや幼ないが故に固有のかけがえのないものをなしうる可能性があることです。江口さんの作品には、小学校低学年の潜在している未曾有の発想力と表現力を引きだすチャンスを、まわりの大人が配慮してあげることの大切さが、暗に示されています。大人の経験や常識の枠の中に子どもをはめこまずに、子どもひとりひとりが内にかくしもっている表現エネルギーを顕在化させることに、私たち大人が心を配ることに留意したいと思います。
第2に、「住宅・都市」というと機能的に便利な効率のよいハコモノを目指しがちですが、「家やまち」というとそもそもの生き方や暮らし方の根本的あり方を自由にたずね、提起し、表現する発想力が開かれていく可能性があります。松本さん親子の作品には世界の児童文学の名作をほうふつとさせながら、現代文明批評をこえる創造的生き方・住み方提案がこもっていることを高く評価したいと思います。モノが豊かな現代にあって、ココロの豊かな生き方・住み方に赴く家・まちづくりのありようを多面的にさぐりあてていきたいものです。
第3に、物語的表現と視覚・触覚的表現の統合により、世界でたった1冊のユニークな「家やまちの絵本」づくりへの可能性を、本コンクールは開きつつあることです。三木さん親子による劇的な物語性と、独特の素材感とダイナミックな動きを伝えてくれるビジュアルな表現性のセットは、実に見事です。そこには、コンセプト(生命のように大切にしたい物語のテーマと展開)とコンテクスト(物語の内容とその表現における構成の流れ)の絶妙なつながりがあり、本コンクールでの創造的作品の要件としてこれからも大切にしていきたいと思います。
次年度以降も、いっそう面白いワクワクドキドキする作品群に出あえることを期待しています。とともに、本コンクールが、全国各地の家庭・地域・学校教育において、住まい・まちを切り口にしながら創意あふれる状況づくりがなされていくとともに、未来のわが国の住まい・まちづくりに向けての多世代の人々の意識喚起というソフトな事業としての継続・発展を願っています。
|
2008年11月 第4回「家やまちの絵本」コンクール審査委員長
愛知産業大学大学院教授 延藤安弘
|
応募総数 : |
505作品 |
734人 |
|
子どもの部 : |
344作品 |
500人 |
|
子どもと大人の合作の部 : |
|
40作品 |
95人 |
|
大人の部 : |
121作品 |
139人 |
|
|
審査委員: |
小澤 紀美子
町田 万里子
勝田 映子
越海 興一
小柳 賛平
佐々木 宏 |
(東京学芸大学 名誉教授)
(手作り絵本研究家)
(筑波大学附属小学校 教諭)
(国土交通省住宅局 木造住宅振興室長)
(住宅金融支援機構 CS推進部長)
(住宅生産団体連合会 専務理事)
(順不同・敬称略)
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
【絵本コンクールを終えての感想】
感動と驚きと楽しさと
社団法人 住宅生産団体連合会
情報管理部長 佐野 孝雄
今年も審査会が待ち遠しかった。応募作品が事務局に届くたびに作品の一部が垣間見え、ワクワクしながらその日が来るのを待った。こういう仕事は滅多にない。量的にも500作品を超える数だし、どの作品にも制作の奮闘振りが偲ばれるので、ひとつとして気が抜けない審査になる。2日にわたって一次審査をするので疲れるが、それは心地よい疲労ともいうべきものだ。作品を手に取るたびに感動と驚きと楽しさが湧いてくる。8人の一次審査委員のどの顔も輝いている。それは作品が輝いているからだ。本当に仕事冥利につきる。
この種のコンクールには珍しいことらしいが、何通ものお手紙が入っている。多くはお母さんからだが、お孫さんを慈しみながら見守っておられるおばあちゃんからのものもある。この便りを読むのも事務局を担当しているもののひそかな楽しみだ。今年もこんなメッセージが同封されていた。少し長いが引用したい。
「子どもがポスターを見つけてきて、『絵本を作るコンクールがあるんだって。本を読むのが好きでしょ。だから自分で作ってみたい!』と言い出したので驚きました。当初はすぐ飽きてしまうだろうと思っていたのですが、毎日のように自分のノートに一人でお話を作り、絵を描き、何度も直している姿を目にしていると、私も嬉しくなりました。とてもよい経験をさせていただきました。ありがとうございました。」
暖かくお子さんを見守っておられるご両親の姿が目に浮かぶ。こういう便りに接すると、このコンクールを実施していて良かったな、これからもできるだけ長く続けたいものだと心から思う。お母さんも励ましているうちに逆にお子さんに励まされているのだろう。幸せのお裾分けをいただいた感じがする。
ところで、今年目に付いたのは、環境問題を題材に扱った絵本が多かった事だ。洞爺湖サミットなどの影響だろうか。子どもたちも社会的なテーマと決して無縁ではない世界に生きている。これからはもっと増えていくのだろうと思う。
昨年に引き続き仕掛け絵本が多いのも特徴のひとつだった。サプライズそのもので、本当に子どもたちの精魂込めた手作りには敬意さえ感じて、頭が下がる思いだ。でも案外本人たちは楽しみながら作っているのかもしれない。そうでなければ作品は出来上がらないだろう。
写真を使った絵本が数冊あった。決して数は多くはないが、今後、この手の応募が増えるのではないかという予兆を感じる。最近はデジタルカメラもパソコンも子どもたちにとってはすっかり身近なものになったからだ。但し、写真はどうしても手作り感が薄らぐのが気になるところだが、今回入賞した作品は手作りのキャラクターを主人公にしているため、その点を補って余りある暖かさを醸し出しているので、今後の絵本つくりに示唆を示しているだろう。
今回も2日間の予備審査を含めて3日の審査会を開いて、審査委員の方々には時間をかけて真剣に目を通してもらった。特に町田先生には505作品全部を手にとってもらった上、最終審査に臨んでもらった。しかし、審査後、皆さんから楽しかったといってもらって嬉しかった。
■国土交通大臣賞■ 「とけいの中の私の町」(子どもと大人の部)
静岡市立長田南小学校 3年生 松本青葉、松本英久、美香子(ご両親)
絵のすばらしさだけでなく、文章も秀逸で審査委員長が文は親が書かれたものと勘違いする程であった。哲学的でさえあった。
お母さんにお会いして聞いたところ、本を読んでいるか、絵を描いているかの日常だそうで、時折りおじいちゃん、おばあちゃんが訪ねてきても、絵本を読んでいると、手を上げていらっしゃい、と言うけどすぐに本に目を戻すという具合だそうだ。想像力豊かな少女で、これからも感性を磨いて欲しいと願わずにはおられない。
■文部科学大臣奨励賞■ 「さくらちゃんとましゅのふしぎなとびら」
さいたま市立大東小学校 1年生 江口さくら
審査委員長が「プロの絵本作家顔負けの真のオリジナリティに溢れている」と絶賛した作品。とても小学校1年生には思えない物語がスピーディーに展開してラストページまで一気に読めるすばらしい出来映え。特にジュラシックパークの世界のような迫力のあるシーンは圧巻。迫力と言えば主人公の顔も迫力満点。よくもこういう顔が描けるものだと感心して聞いたら、鏡片手に自分の顔を百面相よろしくやってみるのだそうだ。そしてできた!と思ったら、お母さん、写真を撮って!と叫ぶ。そうしてこういう迫力ある絵本が仕上がるのだ。印象的な絵本にはそれだけの理由がある。
■住宅金融支援機構理事長賞■ 「ひなたぼっこの家」
梅村郁子 (岐阜県)
絵本をくくる時間がゆっくり流れるのを感じるできばえだ。郷愁を誘うよき時代を伝承している。民俗学的でさえある。作者の梅村さんが実際に関わっておられるある施設を舞台に繰り広げられる人間模様が描かれているが、子どもたちとの交流が特に印象的だった。早く、作品集を入手して登場人物に渡したいという希望をもらった。事務局にとってはこの上ない申し出であり、仕事に拍車をかけようと思った。絵本コンクールがこういう広がりを見せるのは望外の幸せである。
■住生活月間実行委員会委員長賞■
「ニコニコえがおのニャンタウン」 (子どもの部門)
横浜市立つづきの丘小学校4年生 岩上莉沙子
様々な楽しい家が一杯出てきて、本コンクールの典型的な見本のような絵本。どの家にも楽しい仕掛けが盛り込まれている力作。こういう子には是非将来は住宅設計を手がけてもらいたい。こういう建築家が増えたら家作りは更に魅力的な仕事としてイメージアップすることだろう。
「おさむらいさんのかたな」(子どもと大人の合作の部)
西宮市立山口小学校2年生 三木星奈 三木健司(父親)
この絵本コンクールが面白絵本コンクールだったら、これが間違いなくグランプリだ、と審査委員長が思わず口走った絵本。かなわぬことながら、これは是非現物を見ていただきたいと思う作品で、おそらく類書がないだろう。世界で唯一と言えるほどの作品で、次回作を期待したくなるのは私だけではないだろう。
「おやねの上に」(大人部門)
いとうかずみ(神奈川県)
屋根に目をとめたという発想が受賞を半分決めたと言ってもいいくらい重要な視点になっている。加えて、作者のみずみずしい感性が滲み出ていてすばらしい作品に出来上がった。これまで紹介してきた作品群とはひと味もふた味も異なる大人の絵本という感じがする。完成度が高い。次回の応募も期待したい。
作品に目を通して思うことは、いずれにも環境共生への願いが基本に流れていることだ。優しい視線が絵本を通じて伝わってくる。
そして今回の作品には表現面では仕掛けのみならず色彩豊かなもの、写真を使ったものなどが加わりますます多彩になったな、というのが実感だ。そして物語の面では哲学的なもの、楽しい自由な発想のもの、これも多彩だった。絵本は文化だと思う。
今後どういう広がりが展開されるか、もう思いは次回の企画に飛んでいる。
|
|