【総評】
 私たち審査員がうれしい悲鳴をあげるほどに、今回は応募数の飛躍的増加とともに、質的にもみるべき内容・表現の作品が際立ちました。
 今年の作品の第1の特徴は、主人公としての生き物が意表をつくストーリーを展開する感動を呼ぶ物語絵本が数々生まれたことです。「ドッグザウルス」の奇想天外なふるまいの流れや、かもめの視点からまちのタカラが語られるなど、楽しい物語の中に生き生きとした住まい方やまちへのかかわり方への共感をさそってくれます。
 第2に、ポップアップ型の仕掛け絵本など、表現に創意工夫がこもったものが沢山あったことです。飛びだす瞬間驚きと意外性が触発されたり、貼り絵・ちぎり絵・型押しなどいろいろな手法によるあたたかい心のこもった表現は、手づくり絵本のスバラシイ醍醐味です。
 第3に、思い出の表現により伝統や文化への視線がみずみずしく表された秀れものが目立ったことです。祖母の思い出を通して住まうことへの想像力のひろがりや、古いまちなみと暮し方の生彩ある表現や、環境共生的住まい方や、紙の文化の奥ゆかしさなどをしっとりと描いた作品には、日本の風土や歴史に根ざした暮らしと住まいへの憧憬がみなぎっています。なつかしい未来の表現として注目されます。
 第4に、住まいをつくる過程に着眼したユニークな作品がみられたことです。高層住宅建設に使われるクレーンをキリンに見立てた現代的なものがある一方、安産のお守りである上棟式で用いた布を表紙に活用するといった伝統文化へのキラリと光る視点、いづれもみのがせない格別な詩情をたたえています。
 第5に、遊び心やユーモアといった人間性の深みに近づくこころの栄養素がみなぎっている作品に出会えたことです。ねこの思いをユーモラスに表したもの、オタマジャクシが牛ガエルに変身する時の思い入れの強い表現など、子どもたちの生きものとともに住むことへの讃歌は、豊かな住まいや環境への本質的問いかけを示唆しています。
 なお、「子どもの部」なのに中には大人の手が入りすぎているものがみられました。折角「子どもと大人の合作の部」があるのですから、合作の場合はそちらにエントリーされた方がよいでしょう。高校生の作品に力作がありました。今後は「中高生の部」を設けて、感性と理性の両面のバランスのとれた若い世代の絵本づくりが高まればと思います。
 このコンクールは、わが国のこれからの住まいづくり・まち育てのあり方を提起するとともに、その担い手育みの社会的役割を果たす大切な場として、さらに持続発展させていくことを願ってやみません。
2007年11月
第3回「家やまちの絵本」コンクール審査委員長
愛知産業大学大学院教授 延藤安弘

 
応募総数 :
632作品
908人
子どもの部 :
449作品
511人
子どもと大人の合作の部 :
 
72作品
272人
大人の部 :
111作品
125人
審査委員: 小澤 紀美子
町田 万里子
勝田 映子
越海 興一
渡辺 公雄
浅野 宏
(東京学芸大学 教授)
(手作り絵本研究家)
(筑波大学附属小学校 教諭)
(国土交通省住宅局 木造住宅振興室長)
(住宅金融支援機構 CS推進部長)
(住宅生産団体連合会 専務理事)
(順不同・敬称略)
 
国土交通大臣賞
 
あの頃 わが町
絵本を読む
あの頃 わが町
 阪中 清子 ―三重県―
【講評】
川と蔵と道に、子どもも大人も生き生きとかかわりのあったくらしの全景・まちなみが、驚くほどリアルに感動的に描ききられています。幾多の災害にもめげずに自分たちのまちを守り、育み続けていく志がにじんでいます。
 
文部科学大臣奨励賞
 
ドッグザウルスと家のしま
絵本を読む
ドッグザウルスと家のしま
 仁科 優一 ―横浜市立藤の木小学校3年生:神奈川県―
【講評】
主人公の遊び心溢れる奇想天外なふるまい、出会いは仕掛けの意外性を伴って、新しい住まいの物語絵本に間違いなく近づいています。
 
住宅金融公庫総裁賞
 
ヨコハマの気持ち
絵本を読む
 小川 凛太郎 ―横浜市立瀬戸ヶ谷小学校3年生:神奈川県―
 小川 亜紀
【講評】
まちのキモチを表わす8羽のカモメを主人公に物語を通して、横浜の魅力がみずみずしく描かれています。

 
住生活月間中央イベント実行委員会委員長賞
たからもの
絵本を読む
たからもの

 有村 夏輝 ―ますお幼稚園:千葉県―

【講評】
オタマジャクシが牛がえるに変身していく過程の劇的な流れがすばらしい。動物たちへの想いを塗り込んだ表現の力強さが印象的。生きもの讃歌の大作です。
入選
モモちゃんのおうち
絵本を読む
モモちゃんのおうち
 青木 朱嶺(あかね) ―船橋市立湊町保育園:千葉県―
【講評】
主人公はさくら貝。その友だちのトッピーは昨年(入賞)にひき続き登場している。主人公も絵もきわめてユニークで作者は独特の世界をもっています。
入選
つづきの森で
絵本を読む
つづきの森で
 上田 一輝 ―横浜市立つづきの丘小学校2年生:神奈川県―
【講評】
折り紙絵本の大作。ところどころの仕掛けの工夫も良く考えられていて楽しい。池へのごみの投げすてなどもストーリーに取り入れて、自然への想いがこめられています。
入選
もしもねこがいえをたてたら
絵本を読む
もしもねこがいえをたてたら
 片柳 澪  ―野田市立南部小学校5年生:千葉県―
【講評】
ねこ大好きならではのねこの思いを表しているユーモア溢れる表現がスバラシイ。ユーモアという人の心を開いてくれる発想とともに、日々を生きることや、ねことともに人が生かされていることへの気づきを促してくれています。
入選
マンゴーのおうち
絵本を読む
マンゴーのおうち
 小林 愛実(あいみ)
 ―日本モンテッソーリ教育総合研究所附属こどものいえ:東京都―
【講評】
1枚1枚の絵が物語を発信しています。添えられた言葉以上に絵そのものが深くて多様なイメージを持っており、見るものを触発してやまないユニークさは、子どもに潜在している生命・想像力の翼を広げさせています。
入選
ふしぎな植物のおうち
絵本を読む
ふしぎな植物のおうち
 猶原(なおはら) 美奈 ―杉並区立四宮小学校3年生:東京都―
【講評】
タネからおうちが育つ発想は、他の絵本にも見られたが、育った植物のおうちでの生活が生き生きと描かれていて空想の世界に誘われる。仕掛けも楽しく、特にラストシーンの展開もすてきです。
入選
まほうつかいとすてきなお家
絵本を読む
まほうつかいとすてきなお家
 夏目 菜々子 ―ふじみ野市立東原小学校4年生:埼玉県―
 菅家(かんけ) はづき ―同上―

【講評】
貼り絵、ちぎり絵、型押しなどいろいろな手法で色彩豊かに描かれた作品から楽しみながら創作したことが伝わってきます。
入選
私の町を大切に
絵本を読む
私の町を大切に
 森岡 由紀乃 ―北九州市立大原小学校6年生:福岡県―
【講評】
団地のつくり方が、そこに住む子どもの目にいろんな魅力を発見させています。自然にも人工的なものにもそれぞれにキラキラ輝くようなタカラがあることへの共感の世界が見事に描かれています。
入選
ぼくのりそう
絵本を読む
ぼくのりそう
 福元 遼太郎 ―葛飾区立柴又小学校5年生:東京都―
【講評】
緑に囲まれ、自然の中で暮らす楽しさを想像する作者の想いが読むひとに手にとるように伝わってくる作品です。
 
子どもと大人の合作の部
 
住生活月間中央イベント実行委員会委員長賞
ひいばあちゃんとめぐりんぼ
絵本を読む
ひいばあちゃんとめぐりんぼ
 長尾 光玲(みれい) ―鶴ヶ島市立藤小学校4年生:埼玉県―
 長尾 光倫(わひと) ―同 上 1年生―
 長尾 仁美(ひとみ)
【講評】
おばあちゃんの思い出をかくも豊かに物語として描ききり、どの見開きページも住まうことへの想像力がみなぎっている感動的な絵本です。
住生活月間中央イベント実行委員会委員長賞
なるほど なるほど
絵本を読む
なるほど なるほど
 西村 征暁(まさあき)―北区立滝野川第七小学校6年生:東京都―
 西村 かおり
【講評】
ページをめくるたびに、驚きが湧きあがってくるポップアップ型絵本の切れ味鋭い作りこみです。昆虫・生きものとの出会いがあるくらしへの讃歌。
入選
ぼくのちいさなおうち
絵本を読む
ぼくのちいさなおうち
 菊池 慈陽(よしや) ―朝霞市立朝霞第八小学校1年生:埼玉県―
 菊池 通夫(みちお)
 菊池 英子(えいこ)
【講評】
「すてきなおうち」ってどんなものだろう。ストーリーの展開とともに、主人公といっしょに考えてみたくなる絵本にしあがっています。立体的な仕掛けが楽しい。
入選
わくわくジャングルジム
絵本を読む
わくわくジャングルジム
 堂薗 彩子 ―緑ヶ丘第二幼稚園:宮城県―
 堂薗 尚子
【講評】
幼い子どもの場への思い入れのおどろくほどユニークな柔らかい表現と、母親のシンプルな言葉の響きあいがここちよい。
入選
ぱっくんとみどりちゃん
絵本を読む
ぱっくんとみどりちゃん
 山内 侑南(ゆうな) ―横浜市立川上小学校1年生:神奈川県―
 山内 真穂
【講評】
ていねいなはり絵と仕掛けを生かした楽しい絵本です。はっぱくんとみどりちゃんの協力で、空を飛び立つシーンは特に効果的です。
入選
ドキドキ わくわく!まちたんけん
絵本を読む
ドキドキ わくわく!まちたんけん
 横浜市立もえぎ野小学校2年3組32名一同
 本間 章子
 ―教諭:神奈川県―
【講評】
クラスぐるみでまちの「タンケン・ハッケン・ホットケンケン」をやった時の感動的表現の成果として、全ての学校で応用できる内容です。
 
大人の部
 
住生活月間中央イベント実行委員会委員長賞
かみのむこうがわ
絵本を読む
かみのむこうがわ
 夏目 奈央子 ―学生:京都府―
【講評】
紙の持つ手触り感や、紙が持つイメージを触発する力を通して、住まい、住まい方の親密にして優しい思いの世界が詩的につづられている絵本。深い共感を誘ってくれます。
住生活月間中央イベント実行委員会委員長賞
風太と神様いっぱいのお家
絵本を読む
風太と神様いっぱいのお家
 結城 唯善(ただよし) ―PL学園高等学校:大阪府―
【講評】
わが国の環境共生的な住まい方の伝統を高校生がみずみずしく描いたことに深い感動を覚えます。ヤモリのシッポの結末もユニークです。
入選
あかしろきりん
絵本を読む
あかしろきりん
 尾島 晴子 ―東京都―
【講評】
高層住宅の建設に使われるクレーンをキリンに見立て、都市の住宅の風景を夢溢れるストーリーで描いた絵本。発想も絵のタッチも都会的で斬新な魅力に溢れています。
入選
おなべのおうち
絵本を読む
おなべのおうち
 佐藤 ゆきの ―東京都―
【講評】
お鍋がおうちになるという発想の斬新さが光る絵本です。絵の色彩が柔らかく、温かい。鍋料理のように個性を生かして共にくらす良さが伝わってきます。
入選
すてきなお家に出発だ!
絵本を読む
すてきなお家に出発だ!
 白幡 美幸 ―千葉県―
【講評】
生まれてくるお子さんへの想いがこもった温かい絵本です。表紙には安産のお守りである上棟式で用いた布が使ってあります。家族や赤ちゃんをまじえての生活への希望に溢れています。
入選
まちをさがしに
絵本を読む
まちをさがしに
 峰 巳佳(みか) ―東京都―
【講評】
思いを同じくする仲間と共に暮らすことの楽しさや暖かさの伝わってくる絵本です。仲間と共に家をつくり、くらしをつくる楽しさが新たな仲間を呼び、それが「まち」へと発展していきます。共に生き、共に住むことの良さが描かれています。
入選
ゆうちゃんと木の下であそぼう
絵本を読む
ゆうちゃんと木の下であそぼう
 横井 都美(さとみ) ―東京都―
【講評】
傘を屋根に見立てて、楽しくお家ごっこをしている子どもの世界がほほえましく描かれています。仲間が増えるたびに家も充実し、豊かになっていくストーリー展開が楽しい。夢が膨らむ絵本です。
入選
ぼくらの家は美術館
絵本を読む
ぼくらの家は美術館
 和田 初美 ―東京都―
【講評】
作者の体験をみずみずしい思いで描いています。若い感性の光る絵本です。新しい生活への夢や希望が伝わってきます。

 
【絵本コンクールを終えての感想】 

読み手に伝わる作者の熱情

応募作品が急増
 応募作品の受付を開始して2,3日で、どうも昨年に比べて応募作品の数が多いようだ、と感じた。でもそのときは、昨年の応募総数が110通を超える程度だから、倍くらいはゆくかな、とのんびりしたものだった。
   ところが、そのうちに郵便物受けに納まらなくなった。絵本は手紙などと違いかさばるのだ。事務局の佐藤さんが作品受けの箱を特別に設えてくれた。そこにドサッと作品がおかれる日が増えてきた。その風景を見て3倍くらいかな、内心応募総数を上方修正した。
 しかしその見通しは甘かった。受付終了期間間際には特別に用意した箱にも収まらないくらいの分量になり、郵便配達の方は4階にある事務所にまで小さな台車で運んでくれる事もあるほどだった。その姿は民営化も近いし、ここは頑張ろう、という感じだった。このときほど配達員を頼もしい、と思ったことはない。

作品は昨年の6倍近くになった
 最終的に応募数は想定を超える632作品に達した。実に昨年の6倍近くまで伸びた。そこから事務局としては嬉しい悲鳴をあげることになった。まず、参加賞の在庫を気にしながらの追加注文。次に事前の審査の追加を委員にあわてて打診したが、これは気持ちよく受けていただいた。なかでも、2回の事前審査と本審査,あわせて3回の審査を担当していただいた町田万里子先生(手作り絵本研究家、前筑波大学附属小学校教諭)には15時間も割いていただいた。審査員の中では唯一全作品を完全読破していただき、どの作品も力作なので気が抜けないと、真剣に作品と対峙していただいた。でも滅多にない体験で楽しかったですよ、と優しく微笑んでもらい、救われた思いだ。
 結局632作品を絞り込んで、最終審査会には約100作品を送り込んだ。

サプライズと感動
 今年の応募作品を見て気がついたことのひとつに、特に子ども部門の応募作に意外な物語展開が目立ち、子どもの持つ想像力、感性に改めて感じ入った。主人公はいづれも生き生きとしていて、しかも住まいやまちへの共感を生んでくれた。
 次に目立ったことは、手間を惜しまず作り込んだ作品が多かったことだ。飛び出す絵本は今書店でも人気があるようで、その影響もあってかその仕掛けが多かった。ページを開くといきなり飛び込んでくるのでびっくりすることも一再ならずあった。他に卵の殻を細かく刻んで貼ったものや、ちぎり絵など心温まる絵本を見ると、この手作り絵本コンクールを企画運営していてよかったとしみじみ実感できる幸運に恵まれた。
 次いで、印象に残ったことは暮らしの文化や伝統を表現した秀作がそろっていたことだ。しかも若い世代からのメッセージに心強いものを感じた。

力作ぞろいの子ども部門
 まず、子ども部門で文部科学大臣奨励賞に輝いたのは横浜市立藤の木小学校3年生の仁科優一君で、タイトルは「ドッグザウルスと家のしま」。かわいい動物たちが海を渡ってある島に辿り着き、好きな家を探す冒険の旅物語だ。飛び出す仕掛けにまず驚きを禁じえない。手が込んでいて、その苦労がしのばれるが、本人は悪戦苦闘より、むしろ作りこむ過程を面白がっているのだろう。そして奇想天外なストーリーについつい引き込まれる。
 登場人物は全て彼が好きで、周辺においてあるぬいぐるみで、それぞれに自分自身で名前を付けたとのことだ。何枚ものストーリーボードを作りながら最終的にたどりついた自信作だ。本人にも会ったが、そういう情熱的な創作過程を感じさせないようなもの静かな少年だった。
 同部門の中央イベント実行委員長賞は「たからもの」の幼稚園児、有村夏樹君で、昨年の文部科学大臣奨励賞に次ぐ連続受賞に輝いた。それを知らない審査委員長に2年連続受賞だと伝えたら、「力強い表現になっており格段の成長だ」。これは夏樹君にとっては最大級の賛辞である。ただ、今回はそれを上回る秀作があったということだ。動物たちを愛してやまない夏樹君の心情が溢れている。審査の席上、この子の将来は決まったね、という声もあった。

共同創作の響きが心地よい合作部門
 住宅金融支援機構理事長賞に選ばれたのは横浜市立瀬戸ヶ谷小学校3年生の小川凛太郎君とお母さんの亜紀さんの作品「ヨコハマの気持ち」。実は小川家はなんと8人兄妹。絵本の受賞とともに家族大賞を差し上げたいくらいの気持ちだ。亜紀さんがおっしゃるには、6人目を産もうと思ったら三つ子がうまれちゃったとのこと。なんともほほえましいことだ。生後9ヶ月の三つ子ちゃんを除く5人がイベント会場に勢ぞろいし一際注目を浴びていた。気さくな高円宮妃殿下の「大きい順に番号を」の呼び掛けに元気な返事がこだましていた。8羽のカモメが凛太郎君が生まれ育った大好きな横浜の魅力を楽しく紹介している。
 実行委員長賞の「なるほど なるほど」も楽しい仕掛けが一杯。飛び出す絵本でページをくくるたびに驚きの連続。作者は東京都北区立滝野川第七小学校6年生の西村征暁君とお母さんのかおりさん。最終場面は征暁君の理想の家が描かれているが、そこにはとっても大きなテレビあって、その脇に満天の星空が眺められるお風呂に彼の笑顔が弾けていた。
 同じく実行委員長賞を射止めたのは「ひいばあちゃんとめぐりんぼ」。作者は埼玉県鶴ヶ島市立藤小学校1年生の長尾光倫(わひと)ちゃん、同校4年生の光玲(みれい)ちゃんとお母さんの仁美さん親子。色彩豊か、幼い子ならではの大胆なアングルに目を奪われる。おばあちゃんの思い出が感動的に描かれていて、迫力満点で読み手に迫ってくる。光倫ちゃんが絵、光玲ちゃんが文、お母さんが監修と表紙にあるが、家族のほほえましい風景が目に浮かぶ力作に仕上がった。

完成度の高い大人部門
 国土交通大臣賞を獲得したのは、志摩市にお住まいの阪中清子さん(主婦)による「あの頃 わが町」。昭和30年代、どの地方にもあった暮らし、まちなみが力強く大胆に描かれていて思わず引き込まれる絵本。ある年齢層の者には懐かしく思い出される駄菓子屋さん、紙芝居、蔵なども効果的に配されている。台風、火災などを潜り抜け生きてきたものへの応援歌でもあるようだ。団塊世代の女性とは思えないような色使いにうなった。
 実行委員長のひとつ「かみのむこうがわ」は京都在住の夏目奈央子さん(学生)の作品。安野光雅さんを彷彿させるような優しい色調に心が安らぐ。住まいにかかわる静謐な世界に深い共感を覚えて読後感が心地よい。本人の人柄が読む人に自然と伝わってくるようだ。是非作者本人にお会いしたいものだという気持ちになる絵本。
 もうひとつの実行委員長賞は「風太と神様いっぱいのおうち」。本作も大阪府在住の高校生、結城唯善君によるもの。蚊帳、井戸、床下の漬物などが郷愁を誘う。まるで民話の世界に誘われていくような感じ。在野の伝承民俗学の宮本常一を連想させる。結末のヤモリの尻尾も秀逸。本人によると普段からこういう世界を描いてみたかったのだそうで、高校生がそういう思いを持っていることを知り感動した。


高らかな家族讃歌、家っていいね
 多くの作品に共通的に見られたテーマのひとつにユーモア溢れる表現ながらも環境共生社会への根源的な問いかけがあったと思う。絵本を通じて触発を受けた。
 そして審査を通じて思ったことだが、どの絵本にも家っていいね、家族っていいねという作者の呟きが聞こえるようだった。そういう応募作品に支えられて、この絵本コンクールの企画をいつまでも続けられるといいな、という気持ちが高まった。
(本原稿は、社団法人 リビングアメニティ協会会報誌「ALIA NEWS」に掲載したものです)
社団法人 住宅生産団体連合会
絵本事務局 佐野 孝雄

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