総 評

コロナ感染症の拡大に伴い応募数が減るのではないかと危惧しておりましたが、審査会では応募の数よりも「じっくりと取り組んだ」作品の内容に審査員の感嘆の声が上がりました。今回の募集テーマは「『家やまち』への思い・夢・希望・あこがれの家・好きなまちなど」でしたが、事前審査を経て最終審査会では、部門ごとに審査員一同じっくりと読み・見せていただき、活発に意見を交わして審査を行いました。

今年度の応募作品に特徴的な点は、在宅時間の増加に伴う家族観や地域に暮らす人々との温もりある交流やきずななど「人と人との関係性」に焦点をあてながら「内面性」を深堀している作品や光の当て方や視点の発想のユニークな作品が多かったという印象でした。時空を超えた想像力と発想力、さらに感受性の豊かさや描写力の確かさに感嘆しながら「ものがたり」と「表現の多彩さ」に驚きながら素敵な審査の時間を過ごすことができました。さらにコロナ感染症のひろがりで暗くなりがちな日常に「希望の愛と光」を見出している作品に「生きる力」の確かさを実感し、人間のアートを通しての表現と人々の希望を見出していく力強さを甘受できる幸せに感動しておりました。

家族や地域の人々とのきずな、多様性への配慮やまちの許容力、環境・次世代への配慮や共創のスピリッツ、生き物との共生への視点、世代間の考え方を超えて納得していくプロセスの描写、さらに「見立て」による感受性と描写力に引き込まれていく作品など、審査中は至福の時間を過ごすことができました。

来年も多彩な発想力と魅力的な表現による多くの作品の応募がありますことを期待しております。

2022年10月
第18回「家やまちの絵本」コンクール審査委員長
東京学芸大学 名誉教授 小澤 紀美子


審査委員 応募総数 : 1,417作品
小澤 紀美子 (東京学芸大学 名誉教授) 子どもの部 388 作品
町田 万里子 (手作り絵本研究家) 中学生・高校生の部 943 作品
勝田 映子 (帝京大学 教育学部 教授) 大人の部 37 作品
北方 美穂 (あそびをせんとや生まれけむ研究会 代表) 合作の部 49 作品
槇  英子 (淑徳大学 総合福祉学部 教育福祉学科 教授)    
前田 豊稔 (豊岡短期大学 通信教育部こども学科 准教授
 アートハウス西宮 代表)
志村 直愛 (東北芸術工科大学 デザイン工学部
 建築・環境デザイン学科 教授)
石井 秀明 (国土交通省 住宅局
 住宅生産課 木造住宅振興室長)
嘉藤  鋭 (住宅金融支援機構 マンション
 ・まちづくり支援部 技術統括室長)
松尾 知香 (都市再生機構 総務部 広報室長)
平松 幹朗 (住宅生産団体連合会 専務理事)

国土交通大臣賞 受賞作品


絵本を読む

引っこしの まえの日に

岩浪 千智 ―青梅市立第一中学校1年(東京都)―
講評:
「まち」は「人」という深い意味に気づかせてくれる展開の絵本です。絵本としての図と地の関係の描写力が高く、感受性の高さに審査員一同納得の受賞作品です。顔は表現されていないのに引っ越しのあいさつに伺い、嫌いであったまちの人々と挨拶をしている過程で、失うまちの方々との関係性の大切さや多様性にあふれるまちの素敵さに気づきます。さらに暮らしの中での「温もり」「きずな」が豊かに表現されており、読後の余韻が光る作品です。

文部科学大臣奨励賞 受賞作品


絵本を読む

わが家のエアコン

内崎 紗楊 ―聖隷クリストファー小学校6年 (静岡県)―
講評:
白物家電といわれるエアコンをマッコウクジラに見立て、黒い色で表現する発想は大人には持ちづらい。コロナ感染症拡大中の暮らしに対するユニークな視点から生活をとらえていく観察力のすばらしさと、家族のいやな気分を食べちゃうという発想で描かれています。いつのまにか家族の一員となっていく展開は予想もできない作品で、作者の感性の豊かさと、アップと引きの描写力も上手で読み続けていても「見立て」のすばらしさにぐいぐい引き込まれていく作品です。


絵本を読む

ぼくらの大切な町
〜大切な海を守りぬく〜

川畑 菜桜 池田 梨乃 小田 桃寧
 ―鹿児島市立皇徳寺中学校1年(鹿児島県)―
講評:
中学生3人による合作作品です。小学校時代の海ガメの救出体験が根底にあることを伺わせます。通学路に散乱しているゴミに気づいていてもあまり気にも留めずにいた中学生がゴミに絡まっているウミガメを発見し、皆で協働して海岸の清掃をはじめると地域の方々の協力を得ることができ「共創」のまちづくり訴えています。ご年配の方の協力も得ることができ、海がきれいになり、未来を暗示する「よかった、」そして成長して家族をもった中学生が大人になり、「よかった。」という未来を予告する展開を称賛したいです。

住宅金融支援機構理事長賞 受賞作品


絵本を読む

おうちがいちばん

名和 衿佳 ―大垣市立東小学校5年(岐阜県)―
名和 梨沙
講評:
表紙がきらきらとして思わずページをめくりたくなる絵本です。引っ越しを機に、家族でいろいろな家を見学。大人のレトロ志向と子どもの新しい物を求める気持ちがストーリーに素直に反映されている合作絵本です。古いけれど家族みんなで手入れをしていく展開、壁にしっくいを塗り、柱を渋柿で、お風呂のタイルを磨き、檜の香にレトロさが増していく物語は日本の古い家屋のもつすばらしさに気づき、木のもつすばらしさへ意識が変容していきます。さらに家族のきずなが深まっていく描写の工夫がすばらしい展開で、表紙のきらきらは窓ガラスにあたる陽の光を表現していることに納得です。

都市再生機構理事長賞 受賞作品


絵本を読む

このまちは優しさであふれている

川口 里乃 ―鎌ヶ谷市立西部小学校6年(千葉県)―
講評:
読みやすい画面構成で全体として温もりとやさしさに満ち溢れている物語です。足が悪い方や車いす使用の方にはみんなが助けてくれるし、聴覚障害の方へのサポートの仕方もいろいろあるよ、という「気づき」を導いてくれる絵本です。在宅での宅急便の受け取りでの「筆談のやり取り」など、ふだん見逃している暮らしの多様な場面での「人とのつながり」がさりげなく表現されています。コマ送りが上手で立体的な表現も巧みに仕掛けられています。「共生」という言葉が生きている展開です。「まちの暮らしやすさ」の許容量への「問い」の展開が巧みです。

住生活月間中央イベント実行委員会委員長賞 受賞作品


絵本を読む
子供の部

ようこそ

郡司 幸 ―田村市立常葉中学校3 年(福島県)―
講評:
一匹のカナヘビが主人公の物語。池の中のこいを眺めて自分のお家が欲しくなり、育ててくれる家を求めて訪ね歩き、猫ちゃんの招きによりお家に入ると子どもたちが好むいろいろな昆虫が戸建て風の虫かご(ケージ?)に住んでいました。一人では寂しいし、集まってくるのだから、皆で一緒に住んだら楽しいのではという発想と触感の異なる色紙の使用、池の表面と底の表現分け、直書きとセリフのプリントの使い分け、表紙裏・裏表紙裏のていねいな仕上げなどの巧みな表現で、「生きること」の意味をていねいに読みたくなる絵本です。

絵本を読む
中学生・高校生の部

ぼくは あの子の ベビーベッド

平尾 郁穂 ―(神奈川県)―
講評:
ご自分の子育ての経験を絵本にまとめたのでしょうか。色鉛筆と線画の描写が柔らかく美しく表現されていて、お子さんの穏やかな成育を願う親御さんの想いが伝わってきます。さらにお子さんの成育を見守ったベッドは一時物置きに静かに収まっていますが、ベッドの上ですこやかに成長していくお子さんが走り回る音や談笑の声などの暮らしの音につつまれています。ある時、暗い物置きから出され、新たな住まいに見る大好きであった女の子の柔らかな赤ちゃんが手足を動かしている姿に驚嘆。かつて使っていたものを次世代にあらためて命を与えられるというSDGsの深い意味を包含している絵本です。

絵本を読む
大人の部

ダンボールの うさぎ

人見 紗由(5年) 山中 祐人(3年)人見 彰哉(2年)
仲野 日夏莉(2年)
 ―京都市立朱雀第六小学校(京都府)―
仁田 澄子 ―京都市じゅらく児童館 職員(京都府)―
講評:
児童館のお子さんたちの合作絵本です。夏休みの自由工作でつくった「わくわくどうぶつランド」のふれあい広場にはダンボールでつくった一匹のウサギしかおりません。展示されている体育館からウサギは学校中をかけめぐり仲間を集める展開の絵本で、小さなウサギの物語を集めます。図工室、図書室、給食室などなどお子さんたちのウサギを探す感性に読み手もワクワクし、「真の触れ合い」の意味を考えさせてくれる絵本となっています。ご担当された児童館の方の素敵な「発問」が書き手たちの豊かな発想を導いた結果、微笑ましい感性にあふれた作品になっています。

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合作の部

カエルのいえ

崎 瑛斗(1年) 崎 遥斗(5年)
―板橋区立富士見台小学校(東京都)―
崎 京子
講評:
表札が大きく書かれているカエルの家。窓を開けると風が気持ちよく抜け、冬には暖炉の火で温まり、煙はえんとつから抜けていき冬眠する必要がありません。ある時、エサを探して家に戻ると表札の「エ」が無く、次の日には「ル」がなくなり3日目は出かけるのを中止。家の外も内も静かな中、小枝を折る音に玄関のドアを開けると足台から落ちてケガをしたカナヘビが一匹。ケガが治るまで一緒に暮らしていましたが、治っても何度もカエルの家に遊びに来るカナヘビに、表札を「カエルナヘビのいえ」として一緒に暮らす温もりと共生の感覚の大切さを表現しています。室内の本箱のタイトルがシュールで演出も面白い合作の作品です。

審査員特別賞


絵本を読む

わたし の ちいさなふるさと

平野 真央 ―世田谷区立桜丘中学校2年(東京都)―
講評:
日本人の父とエルサルバドル人の母のもとに生まれたマオさんがお母さんのふるさとを紹介しながら「共生」の意味を強く説得力のある文章で展開しています。中央アメリカに位置する小さい国で、一年中暖かくコーヒーが有名。緑がきれいで自然が豊かなエルサルバドルで育ったお母さんを紹介しています。生活は厳しかったようですが、困った方には手を差し伸べ、幸せを分かち合うというひいおじいさんの教えを大切にしたいと語っています。明日を生きている保障が無い中、未来ではなく「今を生きる」ことの大切さと、国の大きさではなく心のやさしさと大きさが大事と訴えています。日本のお子さんたちにぜひ読んでほしい「分かち合い」の意味を説いている絵本です。
子どもの部

絵本を読む

おひめ様 と まほうの花

植村 菜陽 ―福知山市立庵我小学校4年(京都府)―
講評:
こんなに壮大な物語を1冊の絵本に入れ込むことができるのかという驚きを感じた作品です。表紙をめくるとすぐに真っ黒な世界の情景が立ち上がり、空想の世界に引き込まれていきます。読者はこの町をなんとかしなくてはという思いを抱いて、主人公と一緒に冒険の旅に出ます。カラフルな世界を取り戻せた時の喜びも、飛び出すパノラマ絵本であることによって倍増されます。時間をかけ、隅々まで心を尽くして作り上げた絵本で、作者の並外れた想像力に圧倒されます。

絵本を読む

かかしの かかきち

島田 暖加 ―南あわじ市立神代小学校4年(兵庫県)―
講評:
畑に立っているだけのかかしのかかきちが、自分なんかいなくてもとよっちゃんの畑を飛び出す物語。大きな魅力は、色彩の豊かさです。木の葉やしずくちゃんだけでなく、喜びやさみしさの表現にも作者の優れた色彩感覚が表れています。迎えに来たよっちゃんが、かかきちがいないと困るのではなくさみしいだけと話す場面には心打たれます。畑が大切な家、よっちゃんが大好きと気づいたかかきちは、一人でいてもひとりぼっちと感じなくなる結末に、作者の強いメッセージを感じます。

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ぼくの ぼうえんきょう

榅山 結理 ―葛飾区立宝木塚小学校1年(東京都)―
講評:
子ども達は筒を手にすると必ず覗こうとします。それは、大人には見えない世界を見ているからなのかもしれません。この作品はそんなことを感じさせてくれる楽しい絵本です。読者はページをめくるたびに、いったいこれは何だろうとワクワクし、答がわかっていても何度も読み返したくなります。最後の種明かしページも楽しいですね。1年生でステキな絵本をつくり上げた経験をいかして、これからもいろいろな絵本作りに挑戦してほしいと思います。

絵本を読む

おじいちゃん家のはしら

坂井 萌世 ―入間市立豊岡小学校6年(埼玉県)―
講評:
印象的なのは、お正月に毎年親戚一同が集まる場面です。生活の隅々が細やかに描かれ、その場にいるかのようなあたたかな空気感が伝わってきます。子ども達がつける柱の傷が幸せの象徴であることに気付き、すっかり親戚の一員になった読者は、おじいちゃんの死を契機に変化する色調に、かなしみの深さを感じ取ります。そして、再登場する柱の傷によって、幸せな時間が再び芽吹き、続いていく安心感に包まれます。大きな時間の流れを味わい、幸せとは何かを問う絵本になっています。

絵本を読む

もくちゃんの 大好きなおうち

辻村 玲咲 ―開成町立開成南小学校3年(神奈川県)―
講評:
クモのもくちゃんが様々なお家を訪ね、それぞれの良さをうらやましく感じながら帰宅し、雨粒を飾る自分の家の美しさに、その良さを再発見する物語です。背景はおおらかなタッチの水彩やちぎり絵で表現し、前景には本物の糸や折り紙や貼り絵を使うなど、材料や技法がとてもよく工夫されています。ハートマークのもくちゃんがとても魅力的で、良さにはいろいろあることや気づいていない良さがあるかもしれないということを、主人公と一緒に感じるステキな絵本に仕上がっています。
中学生・高校生の部

絵本を読む

ぼくと ほほえむ友だちの町たんけん

吉田 琴音 杉沢 夏奈 ―川崎市立日吉中学校3年(神奈川県)―
講評:
トップページは、夏休みなのに埋まらない絵日記。引っ越して町になじめないために絵日記も書けない主人公に声をかけたのは、頭の上にも乗れるくらいの小さなトラでした。かわいいトラの案内で、町のこともトラのことも好きになる主人公ですが、彼の名前は文字では書かれていません。名前を示す塗りつぶしの色が、彼の心の表現になっていて、少しずつ色が重ねられる工夫もおもしろいです。初めての場所になじめない時、こんなかわいいトラが出てきてくれると楽しそうですね。

絵本を読む

じゃあね ぼくらの商店街

本間 はる香 石黒 海惺 山田 陽彩 渡邊 悠生 佐野 めぐみ
黒岩 芽生 岐城 美帆 石川 美寿々 志水 綾音 杉山 実波
 
―安城市立東山中学校3年(愛知県)―
講評:
おじいさんが営む大好きな駄菓子屋さんがなくなってしまうことに……。現代の商店街によく見られる状況を作者が描きます。大好きな商店街が無くなる寂しさは、取り壊し前の駄菓子屋の前で立ち尽くす場面で表現しました。なんとかしたくて泣き出してしまうシーンの対抗ページには、優しいお姉さんの笑顔。懐かしい想い出を胸に、別れを受け入れ、そして新しい街での想い出作りへ……というココロのステップが、左ページと右ページの対比でよく表現されています。

絵本を読む

リンの扉

小出 乙慧 ―名古屋市立若葉中学校3年(愛知県)―
講評:
自分の思い出と、将来への希望が描かれた作品です。ストーリーを引っ張っていくのは、扉の存在。それは、「私」の人生の扉でしょうか。扉を開くと人との出会いがあり、また次の扉へと人生が切り開かれます。ハルおばあちゃんとの出会いで、広がる世界。「まるで夢のような時間だった」を1ページでティーカップに象徴する手法に、絵本らしい醍醐味を感じさせます。紙質や画材まで丁寧に選んであり、読者を楽しませます。

絵本を読む

なかなおり

鈴木 花衣 ―秋田県立金足農業高等学校2年(秋田県)―
講評:
いつもなかよしの兄妹だということは、商店街の誰もが知っているのです。だから、おにいちゃんのそらくんがひとりで歩いていると、商店街のおばさんもおじさんも「仲直り」に一役買ってくれます。こんな応援団がいてくれると、兄妹げんかはほほえましい「仲直り」で終われるのですね。街の人たちの力って大きかったのですね。最後のページの絵のまとめ方もやさしさにあふれています。心が和むやさしいストーリーには色鉛筆のタッチがよく合っています。

絵本を読む

まめ吉のしっぽフリフリ 大ぼうけん

坂下 友香 ―東京都立工芸高等学校2年(東京都)―
講評:
体いっぱいに「しっぽフリフリ」の喜びを表現するまめ吉のかわいさに圧倒される絵本。ページ展開が秀逸で、まめ吉が大きくジャンプするシーンの構図など、絵本の醍醐味を感じさせます。2次元の絵本の世界から、まめ吉が今にも飛び出してきてじゃれついてくるような気持ちを読者に与えるのは、確かな画力でしょう。水彩のぼかしの美しさが、十分に活かされた作品です。一緒に水遊びをする子どもの体の動きには豊かな表現力があり、犬だけでなく人物描写もよくできている秀作です。
大人の部

絵本を読む

ぼくのすてきなおうち

安藤 邦緒 (岐阜県)
講評:
見事な飛び出す絵本である。ひとや鳥、樹木など自然までも立体的に表現されている。これら自然物の有機的な形は、大変難しい。難なくこなせたように見えるのは、作者の製図の腕がかなりのものだということを示していよう。圧巻はすごく複雑な・・・。また、すてきな巣箱の設計図も掲載されている。これなどは、読者へのプレゼントか。私もつくってみたくなった。

絵本を読む

引っ越しのすきな家

椎名 陽子 (長野県)
講評:
家は、引越しをすることにした。確かに、誰もがそう言う。しかし、だからといって、家自身が引っ越しをするとは。しかも、うわさ話に直ぐに乗って、どこへでも行ってしまうのだ。少し心配なところもあるけれど、なんとステキなお尻の軽い家なのだろう。絵は淡彩を駆使してさわやかに、あるいは結構描き込んでみたりして、自由自在に表現できる技術も楽しげだ。引っ越しということの重みが軽やかに表現されて、引っ越し版「夢であいましょう」のように思えてくる。

絵本を読む

おはよう じいさん

橋 俊英 (福岡県)
講評:
毎朝通る通学路に、いつもおはようと声をかけてくれるおじいさんがいる。みんなはおはようと声に出して挨拶できるけれど、僕は恥ずかしくてペコリとするだけ。いつか声をかけたいと思うけれど、どうしてもできない。そんな時に、・・・。人見知りのこどもの揺れ動く気持ちを、優しい眼差しで表した作品。作者は、こころの中で思えばもう行動は始まっているのと同じだから、大丈夫だよとやさしく語りかけているようだ。横長の画面を見開きにして長くなった道のりを表すなど、絵本づくりの工夫も評価したい。

絵本を読む

もみじ堂 の さくら猫

瀬 紫奈子 (茨城県) 
講評:
省略を絵にも文章にも大胆に用い、洒脱な印象を与える絵本である。全編をペンの線描で描き、僕と猫のさくらにだけ色を施している。そのせいか、夢の風景を見ているような感じを持たせる。しかしこの風景は、近い将来失うかもしれない。いつまでもなくしたくない夢の風景を、作者は描くことで遺し、読者は読むことで心に宿す。余白には、風が吹いているような、そんな印象を与えている。

絵本を読む

においの道

佐藤 初実 (北海道) 
講評:
においでつづるまちの景色。確かに、まちの家々や辻々には、その場特有のにおいがある。仕事や生活、自然のにおいなど。だから、学校からの帰り道は、においに教えてもらえば帰れそうだ。このにおいは曲がる角、ここはまっすぐになどと。ひとの内奥深く染み入る臭覚の記憶、それを絵本で語ろうとしたことを評価したい。なお、話の流れにひと転びあれば、さらに楽しくなったことだろう。
合作の部

絵本を読む

こっちゃんの いえで

三瓶 説子 ―小田原市立町田小学校1年(神奈川県)―
三瓶 侑子 
講評:
主人公のこっちゃんと弟が、お母さんと喧嘩して、お隣に住んでいるじいじとばあばの家に家出するという愛らしいストーリーです。表情豊かな登場人物の喜怒哀楽ぶりや、台所や夕飯メニューの細かい描写、ついつい望遠鏡で母親の様子を観察してしまう主人公の心理状況などが、画面いっぱいにリアルに描かれ見ていて楽しい作品です。家出と言ってもお隣だから安心という平和な環境の中で、お互いを気遣い合う親子の葛藤とやさしさ、そんな中に親と子の成長の過程が見事に描かれています。

絵本を読む

おとしもの

澤邉 勇太 ―船橋市立大穴小学校6年(千葉県)―
澤邉 理子 ―船橋いづみ幼稚園年少(千葉県)―
澤邉 智宏 澤邉 貴子 
講評:
雨の日に傘をさしながら散歩するねずみと、落とし物をしたぞうとの出会いから始まって、うさぎ、くまとそれぞれの落とし物を見つけながら、届けてくれる動物たちの連鎖を描いたユニークな作品です。シンプルな線画によりモノトーンで表現された動物たちの中で、その落とし物だけが色付きで表現され、テーマが理解しやすい巧みな工夫が見られます。ラストシーンで出来た水たまりを囲んで、みんなが虹を仰ぐシーンだけがフルカラーで描かれ、仲間たちの優しい気持ちを象徴する締めの表現にふさわしい画面にもなっており、絵本としての構成力、完成度の高さが伺えます。

絵本を読む

いろいろな おうち

嘉弥真 瑞紗 ―石垣市立白保小学校1年(沖縄県)―
嘉弥真 江理 
講評:
小学校1年生のすずちゃんが、おかしを食べているしあわせな時間の中で、さまざまに住んでみたい家について想像を働かせていくという物語です。キャンディーやドーナツを形どったお菓子の家に始まり、スイカやシャボン玉、木や海のおうちなど、想像は限りなく広がっていきますが、それぞれにその特徴を活かした過ごし方を巧みに描き出し表現できているのは見事です。「パパとなら、どんなおうちでもしあわせ」という結末には、母親と娘による合作ならではの優しい気持ちが表れていてほっとさせられます。

絵本を読む

風のふう

金城 みのり ―沖縄市立島袋小学校6年(沖縄県)―
金城 政史
講評:
窓から入ってくる何気ない風の「ふう」が、自然やまちの中、人をも吹き抜けていく様子を、美しい3原色によるグラデーションで表現した作品です。雲、森、水、まち、様々な場所で風が流れるシーンを、鮮やかな色彩のグラデーションタッチや、ぼかしなどの技法を用いて表現し、自由に、流れるように飛び回る風が体験するであろう風景を想像しながら巧みに描き出しています。作品内に人物は一切登場せず、まちやひとも抽象画のようなイメージでまさに流れるように描かれており、人々の心に響く、アート作品のような仕上がりが見事です。