総 評
第14 回「家やまちの絵本」コンクールに全国から寄せられた作品は、充実した内容の絵本が多く、審査員は至福の時を過ごす ことができました。審査員は、多彩に表現された絵本を通して、日常の暮らしの舞台である家やまちの豊かさや暮らし方を確認し、 さらに人と人、人とモノ、人と自然、人と社会のつながりの多様性や温もりに気づき、明日への「生」と「愛」、「勇気」を与えて くれる絵本の表現や発想力に感動しました。毎年、応募いただいている作品を通して、日常の暮らしの豊かさや柔軟さ、温もりを 確認させていただき、未来への希望が膨らみ、応募者の方々への感謝の念が深まりました。
作品は、子どもの部(小学生以下)、中学生・高校生の部、大人の部(18 歳以上)、合作の部の4 部門で募集していますが、予 備審査を経ての審査対象としての作品には、年齢に関係なく作品を構築する発想の多様さが見いだされ、驚きでした。そのために 審査員一同、それぞれの専門領域の立場から、あるいは専門性を超えた立場から意見を述べ合い、審査のプロセスを楽しみながら、 そして時間を忘れて談義し、最終的に表彰作品を決めることができました。
その中でも、小学生の部門の応募の中に、人口減少や少子高齢社会にしっかりと目を向けて、地方創生のための未来への処方箋 を提案している作品に感動しました。文部科学大臣賞に輝いた「スズの未来予想図」は10 年後の珠洲市の未来を語り、文化伝承 の意味もしっかりと表現されていました。
奇想天外な着想、巧みな表現力、地域の伝統の継承、高齢社会を見通した看病や家族の在り方、犬の目から見た町家の造り方、 ことば遊び、多世代の暮らし、五感を通して感じるまち、多様な「アイ」への気づき、笑顔が輝く家やまちなど、来年度も多彩な 発想や表現力による多くの絵本の応募がありますことを期待しています。
2018年11月
第14 回「家やまちの絵本」コンクール審査委員長
東京学芸大学名誉教授 小澤 紀美子
審査委員 | 応募総数 : 1,475作品 | ||
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小澤 紀美子 | (東京学芸大学 名誉教授) | 子どもの部 | 286 作品 |
町田 万里子 | (手作り絵本研究家) | 中学生・高校生の部 | 964 作品 |
勝田 映子 | (帝京大学 教育学部初等教育学科 准教授) | 大人の部 | 31 作品 |
北方 美穂 | (あそびをせんとや生まれけむ研究会 代表) | 合作の部 | 194 作品 |
槇 英子 | (淑徳大学 総合福祉学部 教育福祉学科 教授) | ||
前田 豊稔 | (豊岡短期大学 通信教育部こども学科 准教授 こどもにはもっと自然を「ナチュラル アートハウス」 代表) |
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成田 潤也 | (国土交通省 住宅局 木造住宅振興室長) | ||
山崎 コ仁 | (住宅金融支援機構 地域支援部 技術統括室長) | ||
原 武 | (都市再生機構 広報室長) | ||
小田 広昭 | (住宅生産団体連合会 専務理事) |
ジンベエのすてきな家 |
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植村 陽太 ―福知山市立庵我小学校2 年(京都府)― | |
講評: ページをくるごとに表れる、海の中の色鮮やかな世界。小さな魚から大 きな魚までが共存している様子の描写にワクワクドキドキ。ジンベエザメのポチポチに思わず手で触ってしまう確かな描写力に、広くて大きな海にイメージが膨らむ素敵な絵本です。 |
楽しい余命3か月 |
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小林 真子 ―市川市立南行徳中学校2 年(千葉県)― | |
講評: 大好きな熊本に住むおばあちゃんが入院し、一日中ベッドの上に。そこ で、おばあちゃんの子ども3人が知恵を出して、おばあちゃんの自宅で療養しているのと同じような雰囲気に病室を整え、家族、きょうだい皆 で見送る展開は、高齢社会での看病や家族のあり方のヒント満載に、温もりを感じる絵本です。 |
「我輩は京町家に住む犬である」 | |
八日市 律子 (京都府) | |
講評: 近年は京都に暮らす方々も、京町家のつくり方を知らないかもしれない。犬の目からみた、町家の造り方を知る絵本です。外側だけでなく 庭、防火対策、2階に上がる隠し階段や箱階段、さらに1階と2階を遮断して暑さ・寒さ対策など仕掛けが満載の絵本で、興味深い展開となってい ます。 |
はなちゃんとアゲハチョウ |
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金子 みのり ―五泉市立橋田小学校5年(新潟県)― | |
講評: はなちゃんはまちと自然が大好きな主人公。アゲハチョウの幼虫を育てる過程を愛情たっぷりに丁寧に描いている作者も、きっとはなちゃんの ような少女なのでしょう。羽化の瞬間がラジオ体操の時間に重なることを知って、その喜びをまちの人々や友達と分かち合う場面は感動的です。 |
ひっくりかえったおうち |
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横須賀 理人 ―日野市立潤徳小学校1年(東京都)― | |
講評: ある日自分のうちがひっくり返り、「にわ」が「わに」になるというゆかいな着想の絵本。絵も魅力的です。パパのくしゃみで一件落着かと 思ったら最後のシーンで再びくしゃみをするという展開も楽しく、奇想天外でハラハラドキドキのおうちの絵本です。 |
ふしぎなふしぎなおふろ町 |
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西尾 壮右 ―大阪教育大学附属天王寺小学校3年(大阪府)― | |
講評: がんばるとお父さんに「ふしぎなおふろ町」に連れて行ってもらえる主人公。ピアノがあるお風呂屋さんでシャワーが踊り出したり虹ができた り、作者の豊かな想像力のおかげで、読者もほっこり幸せな気分になれる絵本です。次はどのお風呂に行ったのかな。 |
あやちゃんのぼうし |
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舌間 結香 ―直方市立福地小学校2年(福岡県)― | |
講評: 主人公がおばあちゃん手作りの大事な帽子をなくし、それを探す物語。その過程で地域のお祭りや景勝地などが次々と紹介されるという地域愛 溢れる絵本。帽子の表現にスクラッチの技法が使われるなど、表現技法が巧みに取り入れられているのも魅力です。 |
〜次世代に受け継いでいきたい〜 |
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森川 大輝 ― 河内長野市立長野小学校6年(大阪府)― | |
講評: 河内長野市の魅力の世界に精緻な絵といざなうような文章で読者をどんどんと引き込んでいく絵本。詳細に調べているだけでなく、現代的な課 題も取り上げて解決を促している場面から、作者の愛情と伝統の継承をほんとうに願っている思いが伝わってきます。 |
きいろいくるまはどこいくの? |
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圓尾 桃子 ―姫路市立姫路高等学校1年(兵庫県)― | |
講評: 家を出た「きいろいくるま」が、商店街を抜け川を渡り、動物園を通りトンネルを抜け山を越え海に出て……。「きいろいくるま」が見るのは 様々な街の顔。カラーペンや色画用紙、マスキングテープなどいろんな素材による街の表現が楽しい作品です。 |
いい いえ |
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森本 萌咲 ―姫路市立姫路高等学校1年(兵庫県)― | |
講評: 本当の「良い家」って何だろう? 作者の答えを素直に絵本で表現した作品。お母さんとけんかした「のんちゃん」が旅する「夢のおうちワー ルド」と現実の世界との対比が上手に表現されています。赤い屋根型の帽子をかぶった「イエろう」の発想もおもしろいです。 |
これから これから |
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平良 咲乃 ―沖縄県立開邦高等学校2年(沖縄県)― | |
講評: なんにもない「この町」から、リュックに荷物をつめて出て行く「ぼく」。鳥の背に乗って自分の町を見るときの構図がとても良くできてい ます。初めて見る「ウミ」の前で「ぼく」が小さく描かれる場面への展開も見事です。 |
FUSEN NO TABI |
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小川 今日太 ―松戸市立六実中学校3年(千葉県)― | |
講評: ステンシルを上手く使ったパステルアートが成功した作品。パステルの色のトーンによってストーリー展開が表現されています。最後に風船を 小さく描いたので、最終ページの世界に広がりが生まれて、全体にリズム感が出ました。 |
私たちのねがい |
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森田 晶子 ―宮若市立宮若西中学校3年(福岡県)― | |
講評: 町のみんなを笑顔にするという私たちの「願い」。この「願い」は、ひとつぶひとつぶの「しずく」につまっているのでした。細かい切り絵で 表現された「しずく」が、少しずつモノトーンだった町に彩りを加えます。白と黒を生かした切り絵の表現が生きています。 |
獅子が舞うおうち |
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酒井 正也 (長野県) 田中 智之 |
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講評: 地域に根ざした伝統行事、「此田神楽」をとりあげ、その意味を掘り起こし、次の世代へつなげようとする意気込みを感じさせる力作。獅子舞 を描く生き生きとした筆致は、地域づくりへの興味関心を引き出すことでしょう。 |