総 評
本コンクールの意義は、これからの住まい・まちづくりのあり方を絵本創作を通じて明らかにすること、未来の住まい・まちづくりの担い手を育むことにあります。今年も優れた作品が沢山寄せられましたが、賞を獲得したものには「家やまちの絵本」創作で心に留めておきたい5つのコツが際立って表現されています。
第1に、ハードとソフトの関係。ハードとは、住まい・まちの空間面・技術面を指します。「完◇たて穴式住居のたてかた」は、我が国の古来からの住居のつくり方と形態を見事に表しているとともに、ソフトが裏打ちされています。ソフトとは、人の関わり方や思いの寄せ方を指します。この作品では、空間や技術が全体から細部までよく押さえられているとともに、仲間と協力しながら製作した過程が生き生きと描かれています。ハードとソフトが相互にからみあうことは大切なコツ。
第2に、現実と想像力のつながり。絵本だからといって、現実とかけはなれた世界に飛んでいくことなく、私たちが住んだり、使っている現実をベースにしながら、現実を変えていくためのファンタジーと呼ばれる想像の世界を開くことが重要です。「わたしのおとうと」には、幼児の日々を生きるリアリティと、生きるエネルギーが爆発して現実を越えるオカシサの融合が如実に表されています。ノンフィクションとフィクションの組合せの按配のよさを心がけましょう。
第3に、生き方と住まい方。「家やまちの絵本」では、人々の生き方や住まい方のありようを問うことが肝要です。「カールのまほうのえふで」では、好意のおすそわけをもって、自分も他人も幸せにすることが鮮やかに描かれています。
第4に、絶望と希望のつなぎ。現実は大変難しいことがいっぱい。でも絶望も希望の始まりと思える未来への開かれた発想を生命のように大切にしたい。「大好きなまち」にはそのことが切実にかつイマジネイティブに描かれています。
第5に、科学的知見と遊びの発想の融合。「りっちゃんと窓ガラスちゃん」のように、技術的仕組みを丁寧に系統的に表しながら、理科っぽい固さを越えて、わくわくする楽しさが添えられるような表現。「わくわく&リーズナブル(楽しく筋道たてて)」が、住まい・まちづくり絵本づくりのもう1つのコツ。
このコンクールは、未来の日本の住まい・まちづくりの担い手を多様に着実に育んでいます。さらに継続・発展させる意義がすこぶる大きいものがあります。
来年も素晴らしい作品に出会えることを、私たち審査員一同は心待ちにしています。
2016年10月
第12回「家やまちの絵本」コンクール審査委員会 委員長
NPO 法人まちの縁側育くみ隊 代表理事 延藤 安弘
審査委員 | 応募総数 : 779作品 | ||
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小澤 紀美子 | (東京学芸大学 名誉教授) | 子どもの部 | 172 作品 |
町田 万里子 | (手作り絵本研究家) | 中学生・高校生の部 | 382 作品 |
大道 博敏 | (前江東区立越中島小学校 主幹教諭) | 大人の部 | 20 作品 |
勝田 映子 | (帝京大学 教育学部初等教育学科 准教授) | 合作の部 | 205 作品 |
北方 美穂 | (あそびをせんとや生まれけむ研究会 代表) | ||
澁谷 浩一 | (国土交通省住宅局 木造住宅振興室長) | ||
伊福 澄哉 | (住宅金融支援機構 CS 推進部長) | ||
西本 和久 | (都市再生機構 広報室長) | ||
小田 広昭 | (住宅生産団体連合会 専務理事) |
わたしの おとうと |
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諸橋 美空 ―妙高市立新井北小学校2年(新潟県)― | |
講評: 幼児の生きるエネルギーが爆発するふるまいが、途方に面白くオカシク描かれている。想像力と現実が往還するダイナミズムも共感を呼ぶ。実際の体験の意味することが如実にあらわされている。弟への深い親愛の情が全ページににじんでいる傑作! |
カールのまほうのえふで |
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西山 百花 ―姫路市立琴丘高等学校1年(兵庫県)― | |
講評: 人物描写力が格別に秀でた作品である。人が生きる上で大切なことを色にたくし、色をおすそわけすることで、他者を幸せにするプロセスが素晴らしい。気の色のシェアできる、人と人のつながりの豊かなまちへの期待がこめられている。 |
りっちゃんと窓ガラスちゃん |
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八日市 律子 (京都府) | |
講評: 窓をめぐる機能の多様性と大切なことが、わかりやすく楽しみながら活用できる知識絵本。遮光のための色々な小道具へのこだわりの造作、地震に備えての窓ガラス強化など、実生活に役立つ手法満載。理科っぽい固さを越えて、わくわくする楽しさが添えられているところが秀逸。 |
こんちゃん | |
中根 潮美 (愛知県) | |
講評: 形式的・通俗的なあいさつ運動ではなく、実質的・感性的なコミュニケーションの意味・価値を、実にやわらかい楽しい内容としてまとめられている。「こんちゃん」「こんばんは」と、韻をかるくふみながらのリズミカルな文章が、人々の心にひびく。人と人がきれぎれになりがちな現代にあって、この絵本は全国に広がってほしい、普遍的な価値を孕む傑作。 |
ひっこし |
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長谷部 琥太朗 ―須賀川市立第二小学校1年(福島県)― | |
講評: 1ページ毎に様々な工夫が施され、ページをめくるのが楽しくなる作品です。様々な仕掛けがあるにもかかわらず、のびのびとした表現に、とても好感が持てました。作者自身が楽しみながら制作した雰囲気が伝わってくる力作です。 |
わたしもう鳥とくらす! |
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伊藤 圭織 ―牛久市立中根小学校5年(茨城県)― | |
講評: 鳥と暮らし始めた主人公が、不思議な体験をしながら、最後は家族や鳥と幸せに暮らすというお話です。絵の具のにじみの美しさと、ペンや色鉛筆などの特徴を生かした、美しいページが目を引きます。不思議なお話と絵の雰囲気が相まって美しい作品になっています。対照的に重厚感がある表紙にも感心させられました。ちょっと幻想的な一冊です。 |
夢ノ中ノ家 |
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島田 琴音 ―広島市立基町高等学校1年(広島県)― | |
講評: 夢の中では、窓を開けるとだれのおうちにでもひとっ飛びで行ってしまえるというお話。魚の家、泡の家、お花の家……そうか、家って人だけが住むものとは限らない、世界にはいろんな暮らしがあるかも、と思わせる面白さ。おばけにだって家があるのかもしれません。家って何だろう?全体に流れる色遣いや優しさに作者の「家」を感じます。 |
どんな家? |
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小柳 友加奈 ―修文女子高等学校3年(愛知県)― | |
講評: 散歩で出会ったアリ、クモ、ハチの家が丁寧に描かれています。昆虫の家を観察すると、家というものはそれぞれの生き方に合わせて作られるのだと改めて考えさせられますよね。主人公のゆうき君の表情が生きています。読者も少年のような視線で「家」を考えてみたくなります。 |
色の世界 |
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福田 成美 ―修文女子高等学校3年(愛知県)― | |
講評: 白の世界に住む白いバラは、色という個性が無い白い色が嫌いでした。 自分の生き方に悩み自分の色を求めて旅に出ます。誰でも経験があるような心の葛藤を、白いバラを主人公に描きます。自分を肯定できるようになるまでの展開は、しかけ絵本の立体的表現が楽しませてくれます。 |
ぼくらの町の守り鬼 |
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廣瀬 京香 ―大阪聖母女学院中学校2年(大阪府)― | |
講評: 大阪府茨木市水尾に伝承される「茨木童子」の話をモチーフに進められているお話。現在のまちづくりの姿がリアルに描かれ、ほのぼのとまとめられています。怖さもある「茨木童子」の言い伝えですが、色鉛筆を使った優しい筆致でストーリーを仕上げる中学生の目に、未来のまちづくりへの希望を感じます。 |
ヤドカリ君とハマグリ君 海は広いなー |
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植木 秀視 (埼玉県) | |
講評: 成長に合わせて貝を探しながら浜辺を歩くヤドカリと砂浜に潜っているハマグリが出会い、一緒に貝を探す旅に出かけます。いろいろな海を渡り巻貝の殻がたくさんあり、海も汚れておらず海草が大きく育っている場所を発見し、大事にしていくというストーリーで、ほのぼのと環境の大切さを教えてくれる絵本です。 |
どうぞ |
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青柳 慶一郎 ―2才(埼玉県)― 青柳 敬子 |
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講評: 「どうぞ」の言葉でつながる人と人、ひろがる笑顔。やさしいタッチの色彩も、お話しの雰囲気にピッタリです。ちぎり絵や手の型押し、ピーマンの野菜版画など、色々な表現技法を工夫すれば、たった2歳の小さなお子さんも、手作り絵本に参加できることがわかります。「わたしもつくってみたい!」と誘われる絵本です。 |
うたちゃんのおうち |
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永井 詩花 ―2歳(兵庫県)― 山本 絵理 |
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講評: うたちゃんが散歩してみつけたお家は、どんな家?見開きの半分のページが広がって、めくる楽しさが倍増。お家を開くと、次々に現れるいちご畑や小麦畑に花畑、ニワトリさんも牛さんも。つくっているときの、楽しいおしゃべりが聞こえてくるような、合作ならではの絵本です。 |
しろいいえ |
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澤邉 勇太 ―船橋いづみ幼稚園年長(千葉県)― 澤邉 貴子 |
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講評: 無駄を排した、シンプルな黒い線だけで描かれたお母さんの絵と、太い筆で大胆に描いた子どもの絵が見事に調和して、センスのよい、おしゃれな絵本になりました。今、このときだからこそできる、合作のよさが生きています。白とブルーの紙の使い分けが効果的で、バースデーパーティーのはなやかさを盛り立てています。 |
ひとくち たべたら |
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立道 駿斗 ―須恵町立須恵第二小学校1年(福岡県)― 立道 都 |
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講評: 親子の手型・足型をもとにしたキャラクター表現は、バージョンアップして、とても凝ったデザインに。ユーモラスな、不思議世界を引き立てています。くらげの家族とかくれんぼしている、見開きのシーンの楽しさ、美しさに魅了されます。子どもとお母さんが紡ぐ、豊かな想像の世界を描いたこの絵本は、家族の宝物となるでしょう。 |