総 評
第10回をむかえた「家やまちの絵本コンクール」は、これからのわが国の住まい・まちのあり方を創造的に表現する場としてますます重要性をおびてきています。本年の作品全体を通じて大切なことをすくいあげますと、次の通りです。
第1 に、子どもが幸せに暮らす住まい・まちは、狭い範囲のそれを超えて、戦争や貧困のない平和で安心して日々を生きることができる世界の実現にあることが、子どもならではのユーモアとあたたかさをもって表現されていることです。
第2 に、地球規模の温暖化からくる気候変動等を超えて、低炭素社会の実現のために自然エネルギーを活かす住宅づくりと環境共生のライフスタイルを楽しく進める方向を示しています。
第3 に、住み手のつぶやきに耳を傾けて、個性ある住み方と地域性を活かした家の「建て方」と、住み仲間と共に住む「住み方」の両面、即ちハードとソフトの両方を大切にする視点が物語性をもって表現されています。
第4 に、住まいづくりもまちづくりも絵本づくりも、冷たい「分担」を超えて、それぞれの持味を活かし合う「協働」の関係創造が状況を変えていく基本的方法であることがみずみずしく表されています。
第5 に、都市であれ地方であれ、「ふるさと」としての地域を育むこと、「ふるさと」とはヒト・モノ・コト・トキの生き生きしたつながりから生まれていくことが新鮮な切り口で提起されています。とりわけ、福島で震災・原発事故でふるさとを追われた子どもが、ふるさと帰還を希望の表現として描いている作品は、心に訴えるものがあります。
私たち審査委員会は、その他にも、新しい発想と創意あふれた表現の絵本と出会えました。住まい・まちのあり方の絵本表現を通して、人の生き方・暮らし方やまちの育み方などの広がりと深さをお互いに発見し学びあえたことに感謝申し上げたい。
このコンクールは、幼い子どもから超高齢者まで全世代参加によって、住まいとまちの創造的提案表現の場として、今後とも継承・発展していくことを切望します。次年度も、感動を呼び社会にアッピールする優れた作品に出会えることを期待しています。
2014年 秋
第10回「家やまちの絵本」コンクール審査委員長
NPO法人まちの縁側育くみ隊 代表理事 延藤 安弘
審査委員 | 応募総数 : 604作品 | ||
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小澤 紀美子 | (東京学芸大学 名誉教授) | 子どもの部 | 201 作品 |
町田 万里子 | (手作り絵本研究家) | 中学生・高校生の部 | 266 作品 |
大道 博敏 | (江東区立越中島小学校 主幹教諭) | 大人の部 | 28 作品 |
勝田 映子 | (帝京大学教育学部初等教育学科 専任講師) | 合作の部 | 109 作品 |
内田 純夫 | (国土交通省住宅局 木造住宅振興室長) | ||
小澤 敏成 | (住宅金融支援機構 CS推進部長) | ||
古川 陽 | (都市再生機構 広報室長) | ||
小田 広昭 | (住宅生産団体連合会 専務理事) |
桜の木が教えてくれたこと。 |
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木下 芽依 ―大阪市立阿倍野中学校2年(大阪府)― | |
講評: 一本の桜の木と少女の友情の物語です。絵の構成は桜の木を真ん中に置き、定点観測の視点で進みます。また、透明水彩絵の具の特性を生かした夜の景色もたいへんよく描けています。しかしなんと言っても秀逸なのは場面や状況に応じて“そよそよ”とゆれて木が気持ちを表すところでしょう。 |
ぼくとおばーの夏休み |
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宮城 佐和子 ―沖縄県立北部農林高等学校2年(沖縄県)― | |
講評: まず、農林高等学校の生徒さんらしく野菜がとてもよく描けています。 特に調理された野菜が素晴らしい。題名どおりに「おばー」と「ぼく」のあたたかい関係もよく表れています。「おばー」の笑顔、たくましく成長した「おう君」の笑顔、沖縄らしい雰囲気の背景、読む人を明るい気落ちにさせる作品に仕上がっています。 |
朝がきた |
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時崎 清 (茨城県) | |
講評: 一日の時間の流れ「まちのねむりからの目覚め」からのはじまりをおだやかに表現した絵本です。現代の私たちが忙しさのあまり感じることの少ないまちの「空気」を柔らかい色調で表現し、さらに街の中の鳥や花のめざめ、家の中や街の中の時間の動きや音が聞こえてくるように表現しています。ゆったりと暮らすことの大切さが心に響きます。 |
いちごのぴんどめ |
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福本 恵子(よこみち けいこ) (広島県) | |
講評: だれもが一度はそーっと自分のものにしたいと小さなはじめての行為を反省した苦く苦しい想いを描いた絵本です。その「手が出てしまった行為」を家族の日常の暮らしの中でどきどき・チクチク悩み、やっとの思いで打ち明け、あやまり、深く反省を胸に刻み、次へ歩みだす女の子の姿を素直に描いた絵本です。 |