【総評】
 このコンクールは2回目をむかえ、応募作品は増えるとともに、質的にも見るべき飛躍を遂げた。第1に、家やまちのあり方への想像力の翼が広げられることにおいていくつもの新機軸性がみられる。想像力とは夢々しいことをいうのではなく、現実と接点をもちながら、現実をこえていく方向への発見があることである。例えば、カブトムシの出会いを通して、子どもの仲間関係豊かな住まい・コミュニティへの気づきの視点の提起。ブロック塀をはずしてみると、どんなにのびやかな風景と心が生まれていくかのイメージを届ける、などなど、評価された作品には批判と創造の両方のまなざしがしっかりこめられている。
 第2に、表現することにおいて、文章の物語的展開と絵画の個性的描写の両面へ創意工夫がみられる。主人公とまわりの人や家やまちとのかかわりのストーリーに躍動感や意外性があると読み手は引き込まれていくととともに、絵が物語内容に応じた色合いや形や素材の組み合わせによって、物語の臨場感や喜びが高められていく。生き物や祭など日常とは異なった別世界が生き生きと描写されることによって、驚きやスリルを体験し住まうことへの想いの世界がひろげられていく。
 第3に制作する主体が、個人・親子・クラスぐるみなど多岐にわたっており何れも望ましいが、とりわけ学校や地域におけるグループ制作が教育の質と環境の質の向上をつないでいく上で重要である。2年連続して評価に価するクラス共同作品を提出された沖縄の金城明美先生の指導は、絵本グループ制作法としても総合学習のすすめ方のモデルとしても特筆される。主題の設定、探検と調査、感動表現の手法の工夫、ひとりひとりの個性を生かしそれらをつないでいく編集力、物語的展開などなど、そこに潜む全国的に応用可能な方法的側面に着眼し、他に広げていく試みが今後期待される。
 私たち審査委員は、意表をつく発想と表現の世界にふれて、わくわくドキドキしながらこのコンクールの評価に携わった。ありがとうございました。来年もさらなる驚きと感動に出会いたいと思うとともに、本コンクールが、子どもも大人も住まいとまちへの感受性を高める機会になると共に、わが国の住環境の改善・向上に役立つ事につながるるよう祈念してやまない。
第2回「家やまちの絵本」コンクール審査委員長
愛知産業大学大学院教授 延藤安弘

 
応募総数 :
112作品
229人
子どもの部 :
69作品
116人
子どもと大人の合作の部 :
 
22作品
87人
大人の部 :
21作品
26人
審査委員: 小澤 紀美子
町田 万里子
勝田 映子
坂本 努
渡辺 公雄

浅野 宏
(東京学芸大学 教授)
(手作り絵本研究家)
(筑波大学附属小学校 教諭)
(国土交通省住宅局 住宅生産課長)
(住宅金融公庫
 住宅情報相談センター 所長)
(住宅生産団体連合会 専務理事)
(順不同・敬称略)
 
国土交通大臣賞
 
すてきなおうち
絵本を読む
すてきなおうち
 加藤芽維(めい) ―静岡市立清水浜田小学校5年生―
 加藤まゆみ ―静岡県―
【講評】
表現力も豊かで完成度が高い。祭から始まって、水槽での暮らし方に展開が広がり楽しい。祭、踊り、唄う暮らし方が、住まいの中に浸透する
イメージを届けてくれる秀逸な作品。
 
文部科学大臣奨励賞
 
いちばんすきなばしょ
絵本を読む
いちばんすきなばしょ
 有村夏樹 ―ますお幼稚園:千葉県―
【講評】
友達と出会い、一緒にいると楽しいーそれが「一番好きな場所」だという発想は、これからの住まいとコミュニケーションのあり方へのみずみずしい表現である。虫や自然が大好きな昆虫少年がイキイキと描いているところに、この作品のもうひとつの価値がある。ヒトとヒト、ヒトとイキモノの親和性の世界への共感がみなぎっている。屏風スタイルは、昆虫物語の展開にふさわしい。内容、表現共に秀でた作品である。
 
住宅金融公庫総裁賞
 
こんな町だったらいいのに
絵本を読む
こんな町だったらいいのに
 小林和代 ―主婦:埼玉県―
【講評】
閉鎖的な空間と開放的な空間の差を子育て中の母親の視線で描いている。ブロック塀をはずしてみよう、という提案を一人ひとりに訴求している。優しいタッチの絵本で、夢を感じさせつつ、実現の志を訴えている。

 
住宅月間中央イベント実行委員会委員長賞
ドングリ町のドーンドングリ
絵本を読む
ドングリ町のドーンドングリ

 菅家(かんけ)はづき、夏目菜々子
 ―ふじみ野市立東原小学校3年生:埼玉県―

【講評】
仲良しの2人が住まいの豊かさや地域の美しさを私たちに問うている。どんぐりを素材にするという発想が面白い。タイトルの「ドーン」も遊び心があり秋祭り、花火のイメージがあらわれていてピッタリ。
入 選
トッピーのおうち
絵本を読む
トッピーのおうち
青木朱嶺(あかね) ―船橋市立湊町保育園:千葉県―
【講評】
ヒトデが主人公という珍しい設定。小さな生き物とのかかわりにおいて子供らしい展開で楽しい。星空がことのほかきれい。
入 選
すてきな場所
絵本を読む
すてきな場所
 土屋由里奈 ―裾野市立富岡第一小学校6年生:静岡県―
【講評】
絵もストリーも魅力的。素敵な原っぱに家を建てると仲間がやってきて、という展開に引き込まれる。ここには、美しいまちづくりへの呼びかけがある。
 
子どもと大人の合作の部
 
住宅月間中央イベント実行委員会委員長賞
はっぱケゴくん
絵本を読む
はっぱケゴくん
沖縄市立泡瀬小学校3年2組一同
金城明美
 ―教諭:沖縄県―
【講評】
クラスメート全員参加型を彷彿させる。ノビノビ、ユーモアが溢れている。素材は沖縄における環境学習だが、全国に共通するテーマ性と手法性を持っている。ページをめくるごとに驚きがある。絵本作成をリードした先生の力量も光る。
入 選
くものいえとおかしなまち
絵本を読む
くものいえとおかしなまち
 河田あかり ―西武学園文理小学校2年生―
 河田由紀 ―埼玉県―
【講評】
夢のあるファンタジー。布絵など立体的で美しい手作り絵本に仕上げており、五感を触発してくれる表現力にみるべきものがある。
入 選
ぼくの家を紹介します
絵本を読む
ボクの家を紹介します
 島貫真亘(さだのぶ) ―文京区立誠之小学校4年生―
 島貫順子 ―東京都―
【講評】
楽しい住み方を多様に伝えてくれる伸びやかな絵本。作成途中でのわくわく感が読み手に伝わってくる出来映え。
入 選
つくしのぼうけん
絵本を読む
つくしのぼうけん
 瀧澤磨彌(まや) ―文京区立誠之小学校1年生―
 瀧澤敬美(たかみ) ―東京都―
【講評】
1行目から文章が詩的で、ページごとに引き込まれていく。手形、足形、指などで描かれておりユニーク。つくしという小さなものの視点から都市と自然が融合していくことへの願いのこもった大きなイメージを届けてくれる傑作。
 
大人の部
 
住宅月間中央イベント実行委員会委員長賞
アリとつきのと大きなおうち
絵本を読む
アリとつきのの大きなおうち
 安藤久仁恵 ―主婦:東京都―
【講評】
波よりも速い主人公など読んでいて楽しい。飛行機を見ている主人公がアリのような自然界の小さな生きものを愛している気持ちが手に取るように分かる。高層ビルに住んでいる子どもの目から見た小さな自然、大きな自然と現代技術文明のいずれをも受容する広やかな心が印象的。
入 選
ユンちゃんとじぃじのおうち
絵本を読む
ユンちゃんとじぃじのおうち
 小川真由美 ―主婦:静岡県―
【講評】
山の別荘を舞台に自然に囲まれて暮らすすばらしさを日記風にまとめている。絵が人と周りのつながりの暖かさを表現していて、すばらしい。
入 選
ボクの幸せの家
絵本を読む
ボクの幸せの家
 河原百恵 ―静岡市立観山中学校2年生:静岡県―
【講評】
幸せな住まい方は、生きとし生けるものとの共生にあることをうたいあげており、とっても大切なことをやさしく伝えようとしている。
入 選
おうちくん
絵本を読む
おうちくん
 塩田美千代 ―保育士:東京都―
【講評】
家と緑の共生の住まいのあり方をシンプルな物語と絵によって表現されているほのぼのとした好作品。

 
【絵本コンクールを終えての感想】
  最近、こんな楽しいことはなかった、という仕事に出会えました。それは住宅月間中央イベント行事の一環としての「家やまちの絵本」コンクールの作品募集にかかわる業務です。創作の楽しさ、親子の弾んだ話し声、仲良し同士の楽しそうなおしゃべり、生徒たちのワイワイガヤガヤの空気が、それぞれの作品から審査をしながら伝わってきて、幸せな気分になれました。
 本コンクールは、憧れの家、好きな街など家や街への思いや憧れをテーマに絵本を夏休みにかけて募ったもので、112作品が応募されました。
 このコンクールは子どもの部(小学生以下)、子どもと大人の合作の部、大人の部の3部門からなりそれぞれ、69、22、21各作品で、やはり小学校の生徒たちの応募が多数を占めました。子どもの部で最も印象的なのは、文部科学大臣奨励賞を受賞した昆虫が大好きな少年の作品「いちばんすきなばしょ」でした。
自身が昆虫になりきって描いているように思えました。昆虫の仲間同士が集う場所が、一番好きな場所だと昆虫たちがつぶやいています。住まいのリビングに当たるスペースでしょう。作者は千葉県柏市の幼稚園の年中さんの有村夏樹ちゃんで、私も実際にお目にかかりましたが、どこにこういう力作を描くエネルギーがあるのだろうか、と思うほど物静かな男の子でした。よほど昆虫が好きなんだろうな、と思いました。審査委員長の延藤安弘先生がはからずも、彼はきっと昆虫少年だ、と審査会で言われたのを思い出しました。
母親の美智子さんによると、絵本づくりにあたっては、飼育中の虫かごや昆虫図鑑を傍らにおいて見ながら、かぶとの光具合を出すために何度も何度も上から塗り直したり、土の色にも注意を払いながら飽きる事なくやっていましたよ、とのことでした。しかし決して図鑑通りではなく、本人の感性でなければあらわせない色彩感覚に驚くほどの虫たちもいます。絵本を見ていると熱中している姿が目に浮かびます。好きな事をひとつでも持っていることの幸せを感じます。
同部門の中央イベント実行委員会委員長賞受賞(以後、委員長賞)作品「ドングリ町のドーンドングリ」は、埼玉県のふじみ野市立東原小学校3年生の菅家(かんけ)はづきさんと夏目菜々子さんという仲良し2人の合作で、どんぐりを主人公にして、住まいの豊かさとは何か、美しい街並みとは何かを、私たちに問うているように思える絵本です。
子どもと大人の合作の部で国土交通大臣賞に輝いたのは、静岡市立清水浜田小学校5年生の加藤芽維ちゃん・まゆみさん親子によるちぎり絵「すてきなおうち」です。ヤドカリの素敵なおうちを描いたメルヘンタッチな、完成度の高い絵本です。母娘で、図書館で絵柄を研究されたりしたそうで、そういうエピソードを聞くと、こちらも幸せのお裾分けをもらった気分になります。
驚いた事にちぎりえはすべて新聞の折り込みチラシだったそうです。2人で気持ちが高まって、さあ、ちぎり絵を始めよう、と思ったときにたまたま手元に折り紙がなく、やむを得ずチラシを思いついたそうですが、その日は徹夜でやり遂げ、誠に気分爽快な朝を迎えたとのことでした。大半を芽維ちゃんが丹念にちぎって貼り付けたそうです。2人はすっかり山下清画伯そのものになりきっていたのではないでしょうか。お二人にはこういうひとときをもてた事の幸せを、喜んでいただいて仕事冥利に尽きます。
委員長賞は、沖縄市立泡瀬小学校の3年2組の38人による共同制作作品「はっぱケゴくん」でした。審査会で1ページごとにタッチが異なる絵本に出合い、ページをくくるたびに驚きと楽しみが味わえました。絵がノビノビしていてしかもユーモアもあって教室のワイワイガヤガヤの空気が伝わってきます。38人もの生徒たちをひとつの方向に導いた金城明美先生の指導力にも敬意を表したいと思います。素材は実際の授業の環境学習の成果で、こういうまとめ方もあるのだな、と新しい発見をしました。
大人部門の住宅金融公庫総裁賞を受賞されたのは、埼玉県の主婦小林幸代さんによる子育て中の母親の視線で、ブロック塀の閉鎖的な街並みを、緑溢れる開放的な空間に変えませんか、という分かりやすい提案をしている作品「こんな町だったらいいのに」です。小林さんは、コンクールの告知を見て、日ごろ感じている事を描いてみようと、一瞬にモチーフを決められたそうです。失礼ながら年齢を感じさせないやさしいメルヘンタッチな絵本に仕上がっていて、夢を感じさせます。
委員長賞の東京都の主婦安藤久仁江さんの作品「アリとつきのと大きなおうち」も大変楽しい絵本です。アリが好きな主人公つきのちゃんが、波よりも早く海辺に着いたり、飛行機雲を見つめながら、自然界の生きものを慈しんでいる場面などには、読んでいて思わず微笑みました。地球が大きな家で、みんな家族だというラストシーンが決まっています。
そのほか選外ではありますが、車椅子生活を送っている方、新潟中越地震の被災者の方からも応募がありました。前者の方から、車椅子の為に廊下は特段広くする必要はない、むしろそのスペースをリビングルームに回したほうが家族のコミュニケーションがとりやくなる、などという常識を見直すメッセージが盛り込まれていました。息子さんが車椅子の父親に叱られると、2階に逃げ込むという最終ページには、苦笑しました。
 後者の方は親子3人で213歳という最高齢チームでした。家は自然災害から命や財産を守るシェルターでなければならないというメッセージには説得力がありました。
また強い余震が続き、怖くて3週間お風呂に入れなかったという92歳の母親が、東京に住む息子のお見舞いの当日、美容院に行っておめかしをされたというエピソードには、親子の情愛を改めて感じました。
最後に、絵本を作る過程で、久々に親子の会話が弾んだという、嬉しい手紙が何通も同封されていて、担当者として励まされました。こういう光景が多くの家庭で見られるようになれば、もっともっと潤いのある家族関係が築かれるのだろうな、という気持ちを次回の作品募集につなげたいものだと、心の底から思いました。
(本原稿は、社団法人 リビングアメニティ協会会報誌「ALIA」に掲載したものです。)
社団法人 住宅生産団体連合会
絵本事務局 佐野 孝雄

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